二章

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橘side 「お前さ、ちょっと過保護過ぎやしないか」 「え、何が?」 「谷に対して」 「…うーん、別に普通だと思うけど。変?」 「イヤ、別に変ではない、、のか?……俺には幼馴染なんて存在しないから、知らん。」 「ふふっ、突っ込んでおいで最終的には知らんのかーい」 部活動の顧問が別の先生に呼ばれ、俺達への監視の目が外れると忙しなく動かしていた足は止まり、ゆっくりとした動きでグランドを進む。ちらりと目配せすると何を考えているのやらさっぱりわからない顔で空を眺めている友人。常に愛想良く上がった口角だけは今日も健在だ。俺は笑うのが、というか表情筋を動かすこと自体苦手なのでいつなんどきでも爽やか笑みを絶やさないこの男を素直に評価している。高校に入学して一年以上が過ぎたが、未だにこの男、高橋憐が怒った所を俺は見た事がない。風の噂程度でも耳にした事がない。 「好きなのか?」 ただのクラスメイトである谷に対するこの男のお節介は、“幼馴染”という域を超えているよう感じる。ふと、気になったから質問した。ただそれだけ、特に深い意味はない。 「好きだよ」 数秒間の間が開き返ってきた返答。 ピタリと歩みを止めて、真横を歩いていた身体ごとしっかりと此方に視線を向け男は言い切った。その顔にいつもの笑みはなかった。ひたりと合わせられた視線に何故だが、背が震えた。 「そ、そうか。」 張り付いた喉から出た自らの声はいつもより幾分か低い気がした。 「もちろん、お前の事も好きだよ」 「……おえ。」 「あっはは」 男は羽根のように軽やかな笑い声を発しごく自然な動きで歩みを進めた。いつもゆるりと愛想良く上がった口角は今日も健在だ。
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