二章

12/12
前へ
/36ページ
次へ
 〝あの〟生徒会長と、ゆうくんが兄弟だなんて話、今まで一度も聞いたことなかった。白石伊織といえば、優秀なアルファが多く在籍するこの学校の中でも、更に飛び抜けて優秀な生徒で、現在三年生である彼は、二年生の頃から二期連続で桜花高校の生徒会長を務めている。言ってしまえば、超進学校である我が校のトップに君臨する特別な生徒なのだ。  白石グループの御曹司であり、生粋のアルファでもある白石伊織と、目立つ事を嫌うゆうくんが兄弟だったなんて、僕自身考えもしなかった。 「さとくん、準備終わった?」 「あ、うん」 「じゃあ行こうか。途中、飲み物買うんだよね。俺も一応水筒持って来たけど、キンキンに冷えたレモンティーが飲みたいな」 「僕はカルピスが飲みたいかも」 「カルピス好きのさとくんって、解釈一致」 「え〜何それ」  机の横に掛けていたリュックと、その中にしまっていた帽子を手に取る。開会式を終え、教室に戻って来たクラスメイト達が他にもチラホラ居てその殆どが女子生徒だった。日焼け止めを入念に塗り直している人や、髪の毛をセットしている人、いつもより濃いメイクを施している人も多く、教室内は普段より華やかだ。  その中でも一際目を惹く美しい生徒が居た。艶やかな黒髪は緩く巻かれ高い位置で結われている。色気漂う華奢な首筋が露出していた。いつもならその場所を守るように身につけていたはずの安全装置が、今日は見当たらない。その代わり、生白い肌に赤い鬱血痕が散っていた。  その印を見せつけるような髪型を彼女はしていた。机の上に置いた鏡に映る美しい顔に、ブラシを走らせている。僕は直ぐに目線を逸らし、早足で教室を出た。  廊下を少し進んだ所で立ち止まっていると、ゆうくんが少し遅れてやって来る。 「女子達相当気合い入ってたね。香水の匂いキツ過ぎ」  再び僕の隣に並ぶと、鼻を摘みながらそう言った。 「たしかに、みんな可愛かったね」  ドクドクと波打つ心臓をそっと抑え、そう言い返す。少し前の出来事が脳裏を過ぎった。教室で盗み聞きした、恋人達の会話を思い出す。    
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2261人が本棚に入れています
本棚に追加