一章

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人見知りな僕と特に珍しい男でオメガ性のゆうくん。クラスでもどこか浮いている僕達はいつも一緒だ。 「キャー高橋くんおはよう!!」 「おはよ〜」 ゆうくんの可愛さに打ちひしがれているとガヤガヤとうるさい教室が一段と賑やかになった。黄色い声につられるように顔を上げる。 「橘くんもおはよう!!」 「あぁ、はよ。」 毎朝見るこの光景はもはや日常と化している。教壇近くに居る体格の良い長身の二人組。芸能人さながらのそのオーラ。その内の1人に自然と目を向けるとバチッと目が合った。すると眩しい笑顔のまま手を振ってくれる憐くん。あぁ、今日も朝からキラキラですね。周りにお星様が飛んで見えるよ。なんて思いながら大好きな彼に向け控え目に手を振り返す。 「毎朝毎朝疲れないのかね、あんな笑顔でファンサービス」 するとさっきまで笑顔だったゆうくんが大分冷めた声でそう呟いた。ゆうくんは頭が良くて学年でも五本の指に入る程の成績優秀者だ。良い大学に入る為にこの学校へ進学して来たらしい。でも、実を言うとここに来るオメガは大半が‪アルファ目当てで毎日憐くんやその他の‪アルファ‬達にアピールするのに必死だ。その為毎回オメガ同士や時にベータとの間での争いが絶えない。ゆうくんもその気がなくともオメガであるが故、少なからず被害を受けているのだろうか、毎朝このアイドル出待ちが如く沸き上がるハーレムを人目見ると虫を噛んだような顔をしている。…かわいい顔が台無しだ。 「さとくん、誰がかわいいって?」 あ、声にでていたらしい。ジト目で睨まれた。ははは。忍法、笑って誤魔化し。 「まぁまぁ、これはもう仕方がない事だよ。僕達には関係ない事なんだからスルースルー」 そう言ってゆうくんを落ち着かせる。ポケットに突っ込んでいたお菓子をはいどーぞと手渡すと、これいつの?と訝しげな顔で聞かれた。酷い。腐ってはいないよ。 「緩んだ顔しちゃってさ、全然関係なくないじゃん。」 未だ僕の視線の先に居る彼を一瞥するとゆうくんは面白くなさそうにそう呟いた。だがその呟きは賑やかな輪の中心にいる彼に夢中な僕の耳には届かなかった。スポーツが盛んなこの学校でサッカー部に所属している彼は相当腕のある選手らしい。僕はスポーツはあまり得意じゃないのでよく知らない。もちろん、これまで試合や練習を見に行こうとはしたものの彼がお目当ての可愛い子達が男女関係なく沢山居てその中に入る事が僕には到底で出来なかった。 「遠いや」 思わずそう本音がこぼれる。自分がもし女の子なら、いや、そうじゃなくとも彼と同等の‪アルファかオメガになりたいと過去幾度となくそう思ってきた。それか恋愛対象にならなくとも今彼の隣に並んでいる橘くんのように傍に居ても許されるような存在であったならばと。 「さとくん?」 僕の変化に気づいてか心配そうにゆうくんが名前を呼んだ。気遣わしげな声が余計に僕を惨めにする。 「あははっそんな顔しないで?可愛い顔がだいなしだよ」 「かわいいは余計です〜!」 あぁ、良かった僕のせいで優しいゆうくんがそんな顔をするのは見たくない。それに、もうこの感情には幾度となく向き合ってきたのだ。多少なりとも慣れてはいる。僕が彼を好きな事はまだ言っていないがいつも隣に居て察しのいいゆうくんにはきっと僕の気持ちなんてバレバレなのだろう。それでもゆうくんは黙って何も言わずに笑っていてくれる。ほんとに優しくていい子だ。
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