一章

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お昼休みいつもならゆうくんとお喋りをしながらご飯を食べだらだらと過ごすのだが今日はゆうくんが委員会の集会に参加している為僕はひとり悲しくぼっち飯をきめていた。普通に寂しい。唯一の救いと言えば、珍しく教室に憐くんが居ること。いつもは部活のミーティングがあるので毎回橘くんや他のサッカー部のメンバーとサッサと食べ終え教室を出ていしまうので、この状況はかなりレアだ。男女が入り交じった6人ほどのグループの中屈託なく微笑む彼の顔をそっと盗み見る。いつも彼を目で追っている僕は自分でも思うほど諦めが悪い。アレ?でもなんか彼が近づいてきている気がする。…気の所為?いや気のせいかな。気の所為だよね。 ⋯うん、確実に目があっているな。 「さとちゃ〜ん!ひとり?なら久しぶりに一緒にご飯食べよ!」 煌めく笑みと整った唇から覗く真っ白な歯。色素の薄い瞳が綺麗な弧を描く。 「⋯⋯」 優しい彼はいつだって僕を気にかけてくれる。彼の1番隣に居られた時間など小さい頃のほんの一瞬で、彼の周りには絶えず沢山の人達が集まっていた。僕よりも可愛くて何倍も魅力的な子達。それでも、こうして声を掛けてきてくるのが凄く嬉しい。 「さとちゃん?」 目があってるのに黙ったままの僕を不思議そうに見つめる大きく澄んだ薄茶の瞳。長い睫毛越しに視線が交わると、心臓が痛い程波打つ。瞳の色と同じ色の艶のある綺麗な少しウェーブがかった髪がサラリと揺れた。鍛え抜かれしなやかな筋肉のついた体は僕よりも20センチほど高い。何よりも誰をも魅了するその性格。 「さとちゃ〜ん〜」 細長い見るからに器用そうな手が目の前を何度か掠める。 「あっ、あ、で、でも憐くん、他の子と食べるんじゃないの?」 何年一緒にいるんだよと突っ込みたくなる程カミカミだ。思考も舌も回らない。彼と話していると別の意味で緊張する為少しはマシになった吃り癖が再発するのだ。恥ずかしいしみっともない。嫌だなあ。 「今日は監督がいないから、ミーティングお休みなんだよね。それに橘達は他の奴らを誘うだろうし、ぜんっぜん大丈夫!ね。一緒に食べよ?」 そんな風に可愛くお願いされれば、誰だって断れない。カッコイイのに可愛いから狡い。僕が君の願いを無下になどできるはずないのに。 「そ、そうなの?うっん、じゃ、じゃあ一緒に食べる。」 内心ガッツポーズを決める程嬉しいがそれを表に出さず務めて冷静に言い返す。だってもう既に、周りの人達からの鋭い眼差しが体中に突き刺さっている。誰だアイツ。あんな奴居たっけ?という含みを持った視線を教室中から向けられ、思わず下を向いた。 「やった〜!じゃあ俺のおすすめの場所で食べよ。」 そんな事など気にもとめない彼が嬉しそうに頬笑みを浮かべ僕がモタモタと机に広げた弁当を片付けもう一度お弁当をしまったのを確認すると、彼は優しく僕の手を引いた。 「ここだよ」 そう言って連れてこられたのは校舎から少し離れた場所。雑草だらけで手入れの行き届いていない花壇の横に少し小さめのベンチがある静かで教室のあの賑やかさを忘れられるひとりが一番落ち着く僕が気に入るような場所だった。自然と笑みが浮かぶ。 そんな僕の嬉しそうな顔を見ながら 「さとちゃん、絶対ここ好きそうだなぁ〜って思ってさ、ここ見つけた時今度絶対に連れて来てあげようって思ってたんだ、どう?お気に召しましたか?お姫さま」 本当に彼は僕を喜ばせるのが上手だ。興奮気味に抱えたランチボックスを鳴らしその場で飛び跳ねた。傍から見ると高校生と小学校のやり取りにしか見えないことだろう。 「う、うん!すごく好きだよ!凄いね憐くん!ありがとう」 僕が静かな場所が好きな事を彼も知っていてくれたのだ。その事実が何よりも嬉しかった。
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