プロローグ

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プロローグ

 それは、姉の誕生日に起きた。  食事用のナイフを手にした時、その刃先に不気味な笑みが映った。姉に目を向けると、全く同じ顔がある。  突然奇声を上げながら笑い出した姉に、僕と母は唖然とするしかなかった。ある種の冗談かと思ったが、姉の握り締めたナイフが母の胸を貫いた。 「あんたもぉ」  声と共に姉は高々とナイフを振り上げた。その刃先は僕に向いている。刺されると思い、固く目を瞑った。  生々しい肉絶音が響いた。血も、僕の顔や体に飛び散ったが痛みは無い。そっと目を開けると、姉の胸にナイフが突き刺さっていた。 「…16歳に…なったら…」  僕は手に持っていたナイフを床に落とした。  姉が崩れ落ちると、血の臭いと、深く重い静寂だけが残されている。 ――なぜこうなったのだろう。どうして…?  そういえば父親も昔、戦場の多くの敵を葬った末に狂い、若くして命を落としたと聞いた。祖父もそうらしい。その血を受け継ぐ姉は、こうなるべくしてなったということか。  つまり、僕も16歳になれば同じように狂い、見境なく人を襲うのだろう。たまたま近くに居合わせた人々が襲われる。そんな恐ろしいことが起こるなんて、駄目だ。絶対に駄目だ。  そうだ、このナイフで今すぐに死ねばいい。そうすれば、誰も苦しまなくて済む。  床に落ちたナイフを手に取ると、自分の顔がうっすらと映った。その顔が先ほどの姉の顔と重なる。 ――アンタもぉ…16歳になったら、アンタもぉ…16歳になったら、アンタもぉ…16歳になったら  頭の中で姉の言葉が繰り返される。そう、こんな血は絶やさないといけない。  死ね。死ね。死ね。死ね。死ねっ。死ねえぃ。そう心の中で繰り返し念じながら、自らの胸にナイフを突き刺した。  刃先が震える。手足まで震える。涙がボロボロと流れ出てきた。
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