六話目 「青い紐」

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その日の夜。 女は初めて自分からあの夢を見たいと思った。 あの赤ちゃんが、自分の妹と知ったからだ。改めて姉として、せめて夢の中でくらいあの子を幸せにしてあげたかった。 彼女の望み通り、あの夢を見た。 いつも通りの暗闇。ただ、違うのは赤ちゃんがいないこと。 どうしてなのか。ようやくちゃんと向き合うことができたのに。 もしや、もういなくなってしまったのか……? 嫌な予感がよぎる。 静謐が包む空間で、いつも以上に感覚が研ぎ澄まされる。 闇の向こうに、何かいる。妹、なのか? すると、黒をかき分け一人の赤ちゃんが出てきた。妹だ。 ほっと胸をなで下ろす女だったが、違和感に気付く。 妹の後にまだ、何かがいる。 何も見えない目先の空間を凝視する。 大きい塊が、動いている? もっと目を凝らす。 大きなもの……ではない。小さな生き物が密集している。 女はそれが何かわかり、ぎょっとした。 群衆、それもただの群ではない。 全て赤ん坊だった。 何百、いや何千を越えるほどの赤ん坊が、モゾモゾ動きながらこちらにやってくる。 皆、干からびてまるでミイラのようだ。 女は直感的に思った。――あれに同情しちゃダメだ―― そして触れてもだめだと感じた。しかし、逃げるに逃げられない。こちらに向かってくる妹がいるのだから。 見捨てることはできない。だがこのままでは二人とも引き込まれてしまう。 大勢の赤ん坊だったものが一斉に向かってくる。あたりは悲しみや恨みを含んだ泣き声で満たされた。 どうすることもできないまま、群衆があと五メートルのとこまで来たとき、妹が止った。そして、 プツン とはっきりとした音が聞こえた。 瞬間、妹と群衆はまとめて暗闇に、落ちていくように吸い込まれていった。 呆気にとられる女は、その場にへたり込み、夢の意識が消えていった。 目覚めたとき、恐らく生まれたときからあったはずの紐が、右手の小指から無くなっていた。 そして、それ以降赤ん坊の夢も見なくなった。
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