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六話目 「青い紐」
女には、二十歳になった今でもよくわからないことがいくつかあった。
一つは、不自然なほど自分だけ大きな事故や病気からギリギリ助かるということ。
二つ目は、物心ついた頃から、右手の小指になにやら“紐”が結ばれていた。
紐はどこか遠くの何かと繋がっていて、今では黒く細くなってしまったが、幼いときにはもっと青く太かった。女以外の人には見えていないようで、なんとなく人に言う気もなかったため誰も知らない。
女が五歳の頃、好奇心旺盛な幼稚園児だった彼女は一度だけ、紐がどこに繋がっているのか確かめようとしたことがあった。たぐるようにしてひたすら先を追いかけた。歩いて歩いて、どれほど時が経っただろう。気付けば全く知らない街にいた。大きくなってから知ったが、女が住んでいる街から一㎞も離れていない場所だった。しかし、小さかった女にとってはとても怖いことだ。不安感に押しつぶされそうになり、思いっきり泣いた。日が落ちる頃、慌てて探しに来た母親にこてんぱんに叱られた。
それ以来、紐の行く末を調べたことはない。
不思議なことに変わりはなかったが、女にとって特に害があるわけでもなく、物に引っかかったり引っ張られたりするわけでもなかったので、小学校入学くらいには無いものと扱っていた。
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