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大学時代は目立たないように行動したおかげか、友人と呼べる者も数人できた。隆史のことを知っても、「そんなことってあるんだね」で済ませてくれる、ありがたい友人たち。今でも交流は続いており、年に数回は飲みに誘ったり誘われたりしている。
それから普通に卒業し、現在はとある中小企業の事務として働いている。そこでも特に支障はなく、至って普通に生活していた。
しかしそれだけでは、隆史の心は満たされない。
隆史に関わるすべての人間が、なんておこがましい事は言わない。一人、たった一人でもいい。隆史のことを理解してくれる人が欲しかった。
「そんなこともあるんだね」ではなく、「それでもあなたが好き」と言ってくれる人。
果たして、司は自分のこの障害を話したとき、どんな反応を返すのだろうか。自分がDomとして不完全であると、Subを満足させるほどの器がないと言ったら。
司はきっと優しいから、ごめんなさいと謝ってくるだろう。司は何も悪くないのに。ちょっとだけ悲しそうな顔をして、でも隆史には笑って見せて。
そんな顔は、見たくない。させたくない。
「俺も卑怯だよな……」
司は会って最初に、自分の不利な点を告白してきた。それはただ単に、自分がSubであるという説明の一環だったかもしれない。しかしこのとき、隆史も自分のことを告白すべきだったのだ。
言わなかったのは、もうフラレたくないというエゴだ。楽しかったからこそ、どんどん言うのが怖くなる。
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