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ゆるい坂道を登り切ると、改札に向かう駅の入り口が見えてくる。切符売り場のすく横で司が歩きを止めると、くるりと隆史の方へと向き直った。
「今日は本当に、ありがとうございました」
行儀よく手を揃えて、丁寧にお辞儀をする。それを返すように、慌てて隆史も頭を下げた。
「いや、こちらこそ。駅までついてきてもらっちゃって」
「それは……」
また、あの顔だ。朱に染まった頬を照れたようにほころばせた笑顔。
「僕がまだ、杉山さんともう少し一緒にいたかっただけですから」
言ってしまってから、恥ずかしいというように口元を右手で隠す。それはまるで、恋をしているような仕草だった。それを可愛いと思い、嬉しいと思う。
長年ポッカリと開きっぱなしだった心の穴が、少しずつ埋まる感覚。
自分の勘違いでもいいから、もう少しだけこの関係を続けていたい。
「僕、杉本さんとお話できて楽しかったです。それで……、あの……」
鞄に手を突っ込み、ゴソゴソと何かを探している。かと思えば、司はスマホを取り出した。手帳型のカバーの留め金を外し、画面をこちらに向ける。
「連絡先、交換してもらえませんか?」
司も、また自分に会いたいと思ってくれた。それに驚いて、嬉しくて。隆史は一つ頷くと、自分のスマホの電源を入れた。
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