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それでも隆史は、一人だけ付き合ったSubがいた。同じ高校の同級生で、少し変わっていると評判のSub。しかし彼も隆史には物足りなかったのか、付き合い始めてから一か月で突然別れを切りだされてしまった。
喫茶店で大事な話があるだなんて、嫌な予感しかしない。そうでなくても、もう二人の関係はとうにギクシャクしたものとなっていたのだ。それもそうだろう。初めてのベットインが失敗した直後のことなのだから。
「あぁ……」
喫茶店へと向かう途中、隆史はそのことを思い出しては街中だというのに頭を抱えてうずくまりたくなってしまった。今思い出しても、あの冷え切った目線は当分忘れられそうにない。下手をすれば、一生ついて回りそうだ。
呆れ、失望、期待はずれ。それらが凝縮されたような、見下したような表情。そんなもんだから最後までできず、そそくさと身支度を始めてしまったのは隆史の方だった。
嫌だなぁ。もう帰ってしまいたいなぁ。そんなことを考えるが、すっぽかすのもまた後で何を言われるのか分かったものではない。渋々、指定された場所へと向かった。
約束の五分前に着くと、彼は既に来ていたらしい。店内をぐるっと見回すと、つまらなそうにスマホを弄っている姿が見える。もう自分の分のアイスティーが、テーブルの上に置かれていた。
とあるチェーン店の喫茶店は賑わっていて、控えめなBGMはよく耳を澄まさないと聞こえない。しかし隆史達のテーブルだけが、しんと静かに沈黙が破られるのを待ていた。
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