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「おまたせ」
できる限りにこやかに、隆史はそう言ってみた。しかし表情が強張っているのは自分が一番よくわかっている。彼もチラリと目線を投げただけで、挨拶を返してはくれなかった。少し冷たすぎるんじゃないか、とは思うけれど、悲しいかな今までの経験でもう慣れてしまっている。
「コーヒー買ってくるから、ちょっと待って」
「すぐに出るからいいよ」
どうやら彼は、早く済ませてしまいたいらしい。スマホを鞄にしまうと、残りのアイスティーを飲み干す。何か言おうと口を開きかけたが、どうせ無駄だと諦めて隆史は彼の向かいに腰を下ろした。
「まぁ、何の話かは見当ついているよね?」
「ま、まぁ……」
「はっきり言って、俺たち別れよう」
それは有無を言わせない強い口調だった。これではどちらがDomなのかわからない。
「だってさ、もうわかってんでしょ。俺たち全然うまくいってないよ。これ以上一緒にいたって時間の無駄」
「うん……」
「ねぇ、本当に隆史ってDomなの?」
「一応……。証明書も見せたし……」
「それはそうだけどさ」
彼は腕を組んで、背もたれに体を投げ出してみる。
Domの証明書を見たいと言い出したのは、付き合い始めてすぐのことだった。DomとSubには、保健所から発行される卒業証書大の証明書が発行される。それはこの先の大学や就職時にはコピーを提出しなければいけない大事な書類として扱われる。
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