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「一つだけ、聞いていいか?」
「ん、なに?」
少し面倒そうに彼は顔をしかめて、そう返す。
「どうして俺が付き合ってくれって言ったとき、OKしたんだ?」
「ん? なんか面白そうだったから」
「面白そう?」
「うん、だってみんな言ってるよ。Domなんて嘘に決まってるって。だから、ほんとにそうかどうか調べてやろうと思って」
「それって……」
自分はまるで、みんなの話題を提供していただけではないか。彼の手の中で踊らされる、哀れなおもちゃ。そんな事のために自分は、この男に弄ばれたというのか。
「でも本当にびっくりしちゃった。だって隆史の名前でちゃんとDomの証明書持ってるんだもん。なんなら写真撮ってみんなに見せてやりたかったよ」
人間とは不思議なものだ。つい数時間前までは好きだと思っていた相手が、今は殺したいほど憎い。いや、それは少し語弊がある。隆史は別に、この男のことなど好きではなかったのかもしれない。ただ付き合ってくれるから、パートナーになってくれるから。ただそれだけでこの男に好意を持っていると錯覚していたにすぎない。
「でもさ、やっぱずっと付き合うってのは無理だわ。もう限界。勘弁してって感じ」
明らかに茶化すように、顔の前で手を振ってみせる。隆史は顔がどんどん熱くなっていくのが分かった。息も荒くなり、どうにか掴みかかるのを抑えている状態。それに彼は気づいたのか、またもや馬鹿にするような言葉を吐く。
「あ、逆ギレとかマジでしないでよ。悪いのは隆史じゃん」
彼はそう言うと、内緒話をするように顔を近づける。そして隆史にだけに聞こえるような声で、嘲笑うように言った。
「あんたのコマンド、全然ゾクゾクしないんだもん」
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