209人が本棚に入れています
本棚に追加
今からでも遅くない。顔が見えないからこそ、文字で伝えてしまおうか。そう思いたち、トーク画面を開く。
「……、今日……、は、ありがとう……、ございました。突然ですが……、あなたに……、言わなくちゃいけない……、ことが……」
そこまで打つと、ポンっ、と軽快な音がして画面に司からのMessageが送られてきた。短いながらも、絵文字を使っているので表情が想像できる。
「今日は会ってくださってありがとうございます。すごく優しく接してくださって、とても安心できました(>ω<) 映画もすごく楽しみにしてます。それでは(_ _)」
隆史は自分の中の決意が、音を立てて崩れていく音が聞こえたような気がした。指が全く動かなくなる。何か返信をしなければいけない。しかし……、これで秘密を打ち明ければもう司からの返信はないかもしれない。
「俺もすごく楽しかったです。ありがとうございました」
自分を正当化して、隆史はそれだけを返してスマホを放り投げた。しかし、すぐにメッセージが来たことを知らせる電子音が部屋に響く。
司からだろうか。そう思うと、無視することはできない。隆史はすぐにスマホを取り上げると、電源を入れた。するちやはり、司からの返信が帰ってきている。
「映画、いつ行きましょうか? 杉山さん、いつ空いてますか?」
やけに気が早いな。そう思う前に、隆史の頭の中ではカレンダーを思い浮かべていた。隆史の休みは、大体水曜か日曜だ。日曜はさすがに混むだろう。しかし、平日の休みなんて合わないに決まっている。
「水曜と日曜は大体空いてます」
「じゃあ、来週の水曜なんてどうですか?」
以外にも、予定は空いていたらしい。隆史は断る理由など一つもない。
それからいくつか細かいことを取り決め、すっかり約束が現実のものとなる。どうやら上野に映画館があるらしい。それから上映時間を調べて、集合時間も決めた。
「それでは、来週の水曜、十時に上野駅で集合ということで」
「はい、わかりました」
「それでは、おやすみなさい」
それを最後に、司からのメッセージは途切れた。隆史もおやすみなさいと同じように打つと、すぐに既読になる。
罪悪感と高揚感がないまぜになり、しばらくトーク画面を眺めていた。
最初のコメントを投稿しよう!