210人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
そうこうしているうちに、もう出発しなければいけない時間が近づいてきた。しかし隆史の心はまだ、決められずにいる。
「……」
なんともなしにテレビを眺めながら、チラチラと時計を確認する。もう番組は違うものに切り替わっており、タレント二人がキャッキャッと楽しそうにショッピングモールを巡っていた。
司はもう、家を出ただろうか。と、そんなことに思いを馳せる。鶯谷から上野なら、まだギリギリ家にいるかもしれない。ならば、今連絡すれば司は無駄足を踏まずに済む。
しかし、隆史には司が待ち合わせのベンチに座っている光景が見えた。人の波にキョロキョロと目を配り、隆史が来るのを待っている。遅いなぁ、と腕時計を見ては、困り顔で連絡しようかどうしようか迷っている。
「やっぱ、直接口で言ったほうがいいよな」
潔く、フラれよう。何が後押ししたのかわからないが、隆史は決意するように口に出した。そして鞄を取り上げると、玄関へと向かう。
この決意が、また折れませんように。そう祈るように隆史はドアノブを回した。
最初のコメントを投稿しよう!