またお会いしたかったんです

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またお会いしたかったんです

 遠足前日の夜はワクワクしているのに、当日の朝になったら憂鬱になっている。隆史は昔からそんな子供だった。そしてそれは今でも変わらない。特に今日は、遠足などの比ではなかった。それは司に対して、罪悪感を持っているから。  隆史が目覚めたのは、六時といつもより早い時間だった。興奮して目が覚めてしまったのだろう。ふわふわと夢見心地のまま、カレンダーを見る。その瞬間に、今日が映画の日であることを思い出した。 「あぁ……」  全身の憂鬱を詰め込んだようなため息が、隆史のアパートにこだまする。  決して司のことが嫌いといえわけではない。嫌いなのはむしろ、本当のことを言えない自分自身。司に嫌われるのが怖い自分自身。  隆史はもう一度スマホの電源を入れ、時間を確認する。ロック画面に表示される数字は、前回見たときと一分も変わっていなかった。気が急いてるわけでもないのに、何度も確認してしまう。 「……」  具合が悪いことにしてしまおうか。熱っぽい、咳が出るから移すと悪い、と嘘の連絡をしようか。しかしそれでは、楽しみにしてきたであろう司があまりにも可哀想だ。  あの真っ直ぐな瞳はいまだに忘れられない。隆史にニッコリと笑いかけたその表情には、司の好意が滲み出ていた。そんな司を前にドタキャンなんて、できるわけがない。  それにこれ以上悪事を重ねれば、隆史はもう自分が許せなくなってしまいそうで嫌だった。
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