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レイは二階にいた。夫婦のベッドルームだった部屋。
黄ばんだ壁紙、木製の古いベッド、その壁沿いにある本棚。
本棚の前に立ったまま、擦り切れた羊皮紙の表紙を左手で持ち、右手でページをめくる。すごく集中している。こちらを振り向きもしない。
二階にも、この家の住人がいないことは確認済みだ。この家は二階建てだし、さっきバルコニーも確認してきた。もう殺すべき住人はいない。
それにしても。
一階の玄関と繋がるリビング。ソファーとローテーブル、ブラウン管のテレビと食卓。
ソファーは年季が入っていて、古さを隠すかのように、シーツがかけられている。ソファーの上に放置された、リモコンや新聞。
丸テーブルの食卓には、食べかけのトマトスープとパンの入ったお皿。この家の住人の、あまりに平凡な最後の晩餐。食事中に襲撃された住人のフォークとスプーンが、投げ出されたままになっている。
リビングからドアを開けると、そこにあるのは台所。白いタイル貼りの床。コンロやオーブン、冷蔵庫。コンロまわりには、包丁やまな板、調味料やスパイス、野菜消毒液などが雑多に放置されていた。
さらに奥には、シャワールーム兼トイレ。コンクリートに囲まれた灰色の空間にあるのは、壁から突き出たシャワーヘッドと、水洗トイレ。
二階には、ベッドルームがふたつと、道路に面したバルコニー。
驚くべきことに、ガスも電気も水道もあるらしい。
スラムとはえらく違う。 これが、普通の人間の住んでる家なのか。
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