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五年前のあの日、オレは飢餓という名の悪魔に襲われている最中だった。道に落ちていた石を口に入れ、唾液を出してしのぎながら、裏通りを身体を引きずって歩く。
あてもなく走り回り、流れついた、この見知らぬ町。
さっき、露店で果物をかっぱらおうとして失敗し、そこの親父にしこたま殴られたばかりだ。傷口を、太陽がレーザーのようにジリジリと焼く。身体中が痛い。
ふらっと視界が横向きになった。いや違う、倒れたんだ。硬く、車のタイヤの残る地面が、目の前に見える。
身体は限界なのに、それでも生を求める。
道を横切る蟻に手を伸ばすが、届かない。耐えきれずに、あたりの砂を口に入れ、吐き出す。だめだ、呑みこめない。
苦しい。なんでもいい。口に入れられるものなら、なんでも。
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