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「おい、大丈夫か、おまえ。これしかねーけど、これ食うか?」  差し出された、ひとつのパン。青と黒のカビが生え、ネズミに齧られた跡のある、硬そうな食パン。  なにも言わずに奪い取り、オレはガツガツと(むさぼ)り食う。ボロボロと地面に落ちたパンのくずも、指でつまんで口に放り込んだ。  最後のパンのかけらを飲み込んだ瞬間、胃が動くのを感じた。お腹の底から湧き上がってくる熱。生の希望のこもった、その暖かさ。  水分を無駄にしたくないのに、どうしようもなく泣けてくる。 「おい、おまえ、名前は?」  オレは涙を呑みこみ、首を振った。  そいつは困ったような顔でオレを見ていたが、突然、ぱっと笑顔になって言った。 「じゃ、オレが名前をつけてやるよ! えっと、んー、名前、名前ねえ…」  そいつはしばらく考えてから、ぱっと顔を輝かせて言った。 「じゃ、『セナ』!セナだよ、いい名前だろ? オレはサムっていうんだ。よろしくな、セナ!」  眩しい。サムの顔が、逆光で見えない。  だけど。  差し出された手を握る。その手の温かさに、オレの冷たかった心が動き出すのを感じた。 涙がとめどなく、ほおを流れていった。 …そうして、オレとサムは、『家族』になった。
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