prologue

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 少年は、少女の身体に触れる。 抱きしめて眠った少女の身体は、あんなに温かかったのに。  今は、少女に触れた手のひらから、無機質な冷たさが伝わってくる。  少年は恐ろしくなって、少女から手を離す。  そして後ずさりしながら、ゴミの隙間から外に出た。  すでに夜になっていた。  蒼く光る満月を見た時、少年は、腹の底から恐怖が湧き上がってくるのを感じた。  少年は月に向かって叫んだ。 自分も狂い死ぬのではないか、という恐怖が少年を襲う。  嫌だ、あんな死に方をしたくない。そう思ってしまう自分の浅ましさ。吐きそうなほど、醜く生に執着してしまう自分。  そして、足元を揺らす、少女がいない現実。そして心に穴をあけるような喪失感。  叫び続ける少年の声は、どこにも届かない。あの、蒼く冷たい月にさえ。  少年は走った。いつもゴミを載せたトラックがやってくる、あの道へと。 そして、未知の場所に向かって走り出す。どこでもよかった。ここではない場所なら。  もう、ここにはいたくなかった。  錆びついたナイフだけを握りしめて、裸足で走る。自分が泣いていることすら気づかずに。  これは、名もなき少年の物語。  家族ではない『家族』によって、『セナ』と名付けられた、そんな少年の物語。
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