137人が本棚に入れています
本棚に追加
/290ページ
少年は、少女の身体に触れる。
抱きしめて眠った少女の身体は、あんなに温かかったのに。
今は、少女に触れた手のひらから、無機質な冷たさが伝わってくる。
少年は恐ろしくなって、少女から手を離す。
そして後ずさりしながら、ゴミの隙間から外に出た。
すでに夜になっていた。
蒼く光る満月を見た時、少年は、腹の底から恐怖が湧き上がってくるのを感じた。
少年は月に向かって叫んだ。
自分も狂い死ぬのではないか、という恐怖が少年を襲う。
嫌だ、あんな死に方をしたくない。そう思ってしまう自分の浅ましさ。吐きそうなほど、醜く生に執着してしまう自分。
そして、足元を揺らす、少女がいない現実。そして心に穴をあけるような喪失感。
叫び続ける少年の声は、どこにも届かない。あの、蒼く冷たい月にさえ。
少年は走った。いつもゴミを載せたトラックがやってくる、あの道へと。
そして、未知の場所に向かって走り出す。どこでもよかった。ここではない場所なら。
もう、ここにはいたくなかった。
錆びついたナイフだけを握りしめて、裸足で走る。自分が泣いていることすら気づかずに。
これは、名もなき少年の物語。
家族ではない『家族』によって、『セナ』と名付けられた、そんな少年の物語。
最初のコメントを投稿しよう!