137人が本棚に入れています
本棚に追加
/290ページ
001
へえ、人の眼球って、こんな感触なんだ。固くてこりこりしてて、気持ち悪ぃな。
「ぎゃあああぁぁあ!」
「うるせえよ」
ポロシャツとベージュのズボンを着た、太った中年の男。
その男の右目から、ミリタリーナイフを引き抜く。ナイフに絡まる眼球の残骸と血液。
そのまま、ためらうことなく、引き抜いたナイフを男の首に突き刺した。
耳の下の太い血管、頸動脈から、壊れた水道管のように吹き出る血しぶき。
血しぶきに押されるように、男の身体はバランスを崩し、倒れる。床に、どさりと重いものが落ちる音。
吹き出る血が、オレの身体に降りかかる。まるでシャワーのように。
ああ、いい匂いだ。
新鮮な血液ってのは、どうしてこうも芳しい香りがするんだろうか。
ナイフに付いた、男の血や脂肪などを、近くにあったテーブルクロスで拭き取る。首にまで脂肪がついてるなんて、太り過ぎだぜ、おっさん。
「セナ、おつかれ。この家の住人は、みんな死んだみたい。そいつが最後だよ。
ほんと、ただの善良な一般人ってさ、なーんか殺りがいがないっていうか…ねえ、そう思わない?セナ」
ぼやきながら入ってきた、迷彩服の男。
癖のある短い黄髪。精悍な顔立ち。声変わりして、少しだけ低くなった声。
苦笑いを浮かべているその表情は、血が撒き散らされたこの部屋に似合わない。
名前はサム。抱えているのは、AK-47。アサルトライフルだ。
これで終わりか。
オレはピストルを持ったまま、サムと手の甲どうしを合わせる。ミッション成功時の、オレら流の勝利の合図だ。
「ねーセナ、見て見て!これ、わたしがころしたんだよ!ほめてほめて!」
赤ん坊の死体の首根っこを掴み、無邪気な笑顔で駆け寄る女の子。名前はユイル。ベージュの緩く巻いた髪が、ふわふわと揺れる。まだ6歳くらいの、あどけない顔の少女。だが、着ている小さいサイズの迷彩服には、血痕が飛び散っている。
赤ん坊の頭には大きく穴があいている。銃弾が貫通した跡だろう。
「よくやったな、ユイル」
オレは、左手のミリタリーナイフを床に置き、跪く。そして、にっこりと優しく笑って、ユイルの頭を撫でる。
ユイルは花が咲いたような可愛らしい笑顔で、赤ん坊の死体を、ぬいぐるみのように抱きしめた。まるで、お手伝いを褒められた子どものように。
オレは、ユイルに甘い。
…ユイルを見ていると、8年ほど前、オレが救えなかった、あのスラムの少女を思い出すから。
最初のコメントを投稿しよう!