001

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 へえ、人の眼球って、こんな感触なんだ。固くてこりこりしてて、気持ち悪ぃな。 「ぎゃあああぁぁあ!」 「うるせえよ」  ポロシャツとベージュのズボンを着た、太った中年の男。  その男の右目から、ミリタリーナイフを引き抜く。ナイフに絡まる眼球の残骸と血液。  そのまま、ためらうことなく、引き抜いたナイフを男の首に突き刺した。  耳の下の太い血管、頸動脈から、壊れた水道管のように吹き出る血しぶき。  血しぶきに押されるように、男の身体はバランスを崩し、倒れる。床に、どさりと重いものが落ちる音。  吹き出る血が、オレの身体に降りかかる。まるでシャワーのように。  ああ、いい匂いだ。  新鮮な血液ってのは、どうしてこうも芳しい香りがするんだろうか。  ナイフに付いた、男の血や脂肪などを、近くにあったテーブルクロスで拭き取る。首にまで脂肪がついてるなんて、太り過ぎだぜ、おっさん。 「セナ、おつかれ。この家の住人は、みんな死んだみたい。そいつが最後だよ。 ほんと、ただの善良な一般人ってさ、なーんか殺りがいがないっていうか…ねえ、そう思わない?セナ」  ぼやきながら入ってきた、迷彩服の男。  癖のある短い黄髪。精悍な顔立ち。声変わりして、少しだけ低くなった声。  苦笑いを浮かべているその表情は、血が撒き散らされたこの部屋に似合わない。  名前はサム。抱えているのは、AK-47。アサルトライフルだ。  これで終わりか。  オレはピストルを持ったまま、サムと手の甲どうしを合わせる。ミッション成功時の、オレら流の勝利の合図だ。 「ねーセナ、見て見て!これ、わたしがころしたんだよ!ほめてほめて!」  赤ん坊の死体の首根っこを掴み、無邪気な笑顔で駆け寄る女の子。名前はユイル。ベージュの緩く巻いた髪が、ふわふわと揺れる。まだ6歳くらいの、あどけない顔の少女。だが、着ている小さいサイズの迷彩服には、血痕が飛び散っている。  赤ん坊の頭には大きく穴があいている。銃弾が貫通した跡だろう。 「よくやったな、ユイル」  オレは、左手のミリタリーナイフを床に置き、(ひざまず)く。そして、にっこりと優しく笑って、ユイルの頭を撫でる。  ユイルは花が咲いたような可愛らしい笑顔で、赤ん坊の死体を、ぬいぐるみのように抱きしめた。まるで、お手伝いを褒められた子どものように。  オレは、ユイルに甘い。 …ユイルを見ていると、8年ほど前、オレが救えなかった、あのスラムの少女を思い出すから。
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