出会い 1

1/1
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ

出会い 1

 目を見開く。頬がほころぶ。閉めた口元がゆるむ。本田 亜理紗(ほんだ ありさ)の視線の先。向かって左に、トラの頭をした者。向かって右に、オオカミの頭をした者が立つ。どちらも黒いジャケットの袖口から、獣の手。黒いスラックスから、尻尾が出ている。二人の交わす会話は、聞こえない位置。異世界に居ると意識させた事の一つ。話をやめる。黒い革靴を鳴らす。苦もなく二足歩行をこなす。  亜理紗は右を向く。肩に載るシマリスのクリクリした黒目と合う。周りに同じ国の出身者がいれば。全員がツッコミを入れる。子猫ほどの大きさ。心友が付けてくれた護衛。言葉を交わさずとも、望みが一致する。揃って、後ろを向いた。  犬の頭をした者が立つ。名前は、アヌビス。主の匂いがするという理由で、味方になってくれた。初めて会ったとき。亜理紗は、黒い毛並みを触らせてもらった。柔らかく温かい。灰色の作業服の下は、鍛えられた人間の体。  口には出さないが。アヌビスは腕を組み、賛成しかねるという態度。キラキラした目を、一人と一匹に向けられては。折れるしかない。 「ちょい、待ち。後をつけるには、近すぎる」  笑みを浮かべて、体の向きを戻す。一歩、踏み出そうとした。亜理紗のアゴに、シマリスの前脚。忠告を受け入れる。獣の鋭さを、なめてはいけない。  刑事ドラマでは。犯人に逃げられたと、上司に報告する距離。尾行を開始する。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!