出会い3

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出会い3

「屋根の上に、人がっ!!」 「亜理紗! 前に避難を!」 「はい!」  悲鳴を亜理紗は上げる。アヌビスに名前を呼ばれる。冷静さを取り戻す。指図をした彼が走って行く。オオカミの方へ。亜理紗は仰ぎ見る。屋根の端に掴まる、佳音と目が合った気がした。 「前へ! 前へ!」  声と手で指示を出す。クロールのような手の動き。伝わるか。亜理紗は自信がなかった。佳音が中腰で立つ。肩ごしに振り返る。メンバーに手で合図する。何か、言ったのも聞こえた。  屋根を蹴って、佳音が飛ぶ。続いて、他のメンバーも。不自然な落下速度。到底、届くはずのない。水場に落ちる。盛大な水柱と飛沫を上げた。 「気づかれないように、力を使った」  シマリスが自慢げに言う。亜理紗は気づかれたはずと思ったけど。口をつぐむ。うめき声が聞こえてきた。アヌビスの。 「アヌビスを助けて!」 「承知!」  亜理紗は思い出す。人間の手は、獣の爪に勝てない。シマリスに頼む。すっ飛んで行った。  ふうっ、と息をつく。水場の方を見る。水飛沫が上がって、随分経つ。上がって来る人がいない。亜理紗の血の気が引く。想像よりも深さがある。服が水を吸って重くなり、浮き上がれない。  亜理紗は走り出す。慣れない砂の上。進みにくいし。足を取られて、前のめり。転んで、両手をついた。ザバッ。次々に物音が立つ。顔を上げる。水面に出てきた順に、陸に上がった。 「大丈夫ですか?」  這って近づいた亜理紗が声をかける。メンバーの誰も返事しない。彼らが見ている方を向く。  砂山の向こう側。黒い煙が立ち上る。柱や屋根の一部が突き刺さる。沿って赤い炎が、燃える範囲を広げる。火花を散らす。起きた風で、布切れが飛ぶ。  救助が来るまで、眺めていた。
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