第一話・1

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第一話・1

 まぶたを開く。枕元に手を伸ばす。指先が硬い物に触れる。倒した。高い音が立つ。ビクッ、と身を震わせる。変わりのない静けさ。胸を撫でおろす。掴み直して、顔の前に持ってきた。輪郭沿いに触れていく。ボタンを押して、明かりを点す。短針と長針の位置を見た。本田亜理紗は、苦笑いをする。昨夜、セットした。目覚まし時計を。三十分も早く、起きてしまった。頭は、少しばかり重い。でも、アラームを止める。起き出した。軽い緊張が、眠りを妨げる。  布団の上に立つ。頭の天辺をコツンと叩く。手を挙げるが。逃げ回る。エイッと、プラスチックを掴む。つながる紐を下に引く。電気がついた。一段上がった床の間の前。敷いてある布団との間。畳まれた服がある。昨夜、並べて長々と悩んだ末。いつもの服に、落ち着いた。いそいそと、着替える。  布団の隅。掛け布団がこんもり。膨らんでいる所がある。少しずつ、動く。頭が出る。シマリスだ。護衛として、ついて行くことになった時。少女マンガを参考にして、変身した。帰ってきた後、図鑑を見せられる。ゲゲッと、驚いた。  シマリスは掛け布団を出る。小さな体。図鑑より、雇い主の意見を尊重した。服が伸びるという。亜理紗が障子戸に向かうのを見る。追いかけて、パンツの裾に飛びつく。服を辿って、肩に載った。
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