出会い 2

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出会い 2

 ジャリジャリ。踏むたび、音が立つ。風が吹き込む。特有の香りを運ぶ。影が落ちる中。足を止める。まぶしい。目を細める。緩やかな砂の斜面。表面に美しい波模様を作る。崩れた箇所を上に辿っていく。パカッ、と亜理紗は口を開く。閉じて、後ろを向く。長々と続く、暗がり。トンネルの先に、焦げ茶色の建造。外には出ずに観察する。  正面に、巨大なラティスフェンス。菱形の穴から奥が見える。箱形で、柱を支える。亀のように、トンネルから頭を出す。仰ぎ見た先。屋根が覆う。奥にも同じ柱があると、想像させた。左を向く。橇で斜面を滑る大会でも開かれるのか。辿り着く先に、水場があった。 「きな臭いですね」  同じく顔を出したアヌビス。見上げて、回りの臭いを嗅ぐ。亜理紗はつられて見上げた。犬の嗅覚に、人間の鼻はかなわないのに。  屋根の上。端から身を乗り出す人がいる。見覚えがあった。亜理紗は思い返す。テレビで見た。国民的アイドルグループ"レグルス"のメインボーカルをつとめる秋津 佳音(あきつ かのん)だ。所属する天馬 駆(てんま かける)事務所では、二番目に歌が上手いという。試しに、手を振る。気づいて、振り返してくれた。  亜理紗は首を傾げた。脱出ゲームの参加者への応援に、特設ステージが組まれたと察しがつく。けど、スタッフが誰もいないのは、なぜ? 二階ほどの高さだというのに。歌声も聞こえない。 「あいつら、見っけ。・・・何をしてるんだ?」  シマリスが前脚で差し示した柱の前。オオカミの頭をした者がしゃがんで、作業中。奥の柱では、トラがしゃがんで、作業中。再び、亜理紗は首を傾げた。  ズズン。鈍い音。響き渡る。立っていられないほどの揺れ。建造物が傾く。向こう側に。
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