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向かい合って座る大成と優輝。終始大成は怪訝な顔で優輝を見ながら話している。それに対して優輝は落ち着き払っていた。
「あんたは出版社の人間か? どういうつもりだ」
半分怒ったような口調で話す大成。
「はぁ? 何のことですか?」
優輝は寝耳に水といった様子だ。
「俺がここにいるのを知って来たんだろ?」
「ちょっと何を突然、」
〝プルルル・・・プルルル・・・〟
話している途中で優輝のスマホが鳴った。
「ちょっとスミマセン。電話に出させて下さい」
優輝は電話を取った。
「ハイハイ。うん、大丈夫だよ。今いつもの店・・・うん、いるよ」
(いつもの店・・・?)
上目遣いに優輝を見る大成。その時店主が見えた。遠慮がちに二人の様子を伺っているのが分かる。話を続ける優輝。
「心配無いよ。君が来れば彼も分かるんじゃない?」
(何だよ。俺のことを話しているのか?)
「うん・・・じゃあ待ってるよ。直ぐに来て」
電話を切る優輝は真直ぐに大成を見て、
「今から彼女が来るんですけど、同席させてもらっていいですか?」
と屈託の無い笑顔で聞く。
「別にいいけど・・・彼女ってまさか・・・」
小さな声で囁くようにいう大成に、
「知っているはずですよ。そう、よく知っているはずです」
ニコリとする優輝。
「辻エリカなの・・・?」
「正解です。エリカですよ」
それを聞くと大成はソワソワし始める。
「フン。俺を馬鹿にしているんだろ? 100回も落選したことを二人で笑いたいんだろ? どこの出版社だよ。黎明舎か? 楓出版か?」
背もたれに寄り掛かり腕を組んで聞く。
「だから何のことですか? 僕はアウディのことしか知りません」
「・・・・・・」何かを探りながら大成は黙って疑心の目を向ける。
「やだなぁ亀野さん。いやペンネームの兎野さんの方がいいですか?」
「は?」
「そのペンネームはコンプレックスの現れでしょうか?」
「何だと?」
ムカッとする大成。続けて言い放つ。
「森伊蔵を奢るのやめた。自分で払えよ」
「別にいいですけど、僕が森伊蔵を大好きなのは亀野さんが一番知っているはずでしょ? イジワルしないで下さいよ」
「・・・・・・」
「そもそもマスターにお願いしてキープしているのは僕の森伊蔵でしょ?」
「・・・!」
薄気味悪さを感じ始めている大成。何も話せなくなっていた。その時「いらっしゃいませ~!」と店主の声が聞こえた。入口の引き戸に目をやると、そこには栗色のロングヘアーの女が立っていた。かなりの美女だ。
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