出会った意味

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出会った意味

「非現実的な物語を書く割には、思考が短絡的で固いのね」  怪訝な表情でポツリと言うエリカ。 「兎野さんは自ら扉を開けて入って来たんですよ。それには引き金があった。それが100回目の落選です」  優輝が間に入って鋭い眼光を見せた。 「当たっているじゃないか。俺もそうに思っていたよ。内心立ち直れない程ヘコんでいる。つまりそれが死への扉だろ?」  半分自棄になって大成が言うと、 「逆です。自ら希望の扉を開けたんです」  説き伏せるように囁く優輝。 「希望? これのどこが希望なんだよ」  するとエリカは改まって話し始めた。 「私達がなぜ人間としてあなたに会えたと思う? 日夜たくさんのキャラクターが創られているけど、こうやって出て来られるキャラは限られているの。プロの作品だからって皆が皆人間として存在していないの。だけどあなたの作品のキャラ達は違うの。どうしてだと思う?」 「え・・・?」  真剣に説くエリカに大成は言葉を見つけられない。 「それはキャラに命が吹き込まれているからなの。魂が入っているからなのよ」 「魂? 文字で表現した人物に?」 「文字かどうかなんて関係無いの」 「・・・・・・」 「あなたの作品の人物達は切ないほどに生きている。そんなキャラは雑念があると生まれない。例えば締め切りに追われているとか、大金が絡んでいるとか、適当に辻褄を合わせて無難な話に収めたとか」 「・・・・・・」 「あなたには雑念が無い。魂で小説を書いている。自分では気が付いていないかも知れないけどね。ただ少し捻りが足りないだけ」  吸い込まれるようなエリカの眼差しに大成は思わず視線を逸らす。 「それを伝えに来たのか?」  と呟いた。すると黙って聞いていた優輝が口を開いた。 「今から僕達が言うように物語を書き直して下さい。最初に言っておきますけど、これは不正でも何でもありません。あなたの創った人物の助言ですから、これはあなたの作品です・・・」  優輝の眼は力強く何かを訴えていた。 「ハ、ハイ・・・」  その気迫に思わず姿勢を正す大成。
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