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信じがたい話
「真面目に聞きたい。あなた達の目的は何だ。何を言いたい?」
大成は改まって二人に問い掛けた。
気が付くと店内は程良く席が埋まり賑やかになっていた。店主も忙しくカウンター内の狭い厨房を動き回っている。
「目的? それは兎野さん自身が自分の胸に聞いて下さいよ。なぜ僕ら二人があなたの前に現れたのかを」
真直ぐに大成を見据えて返す優輝。
「そんな名前で呼ぶな。俺は亀野だ」
「それで今日、兎野って名前を捨てるつもりなの?」
エリカが潤んだ眼差しを向ける。
「だから、何で見ず知らずのあんた達がそんなことを知っているんだ。気味が悪いんだよっ」
履き捨てるように吐露する大成に、
「まだ分からないですか?」
と優輝は眉を吊り上げた。
「ああ、分からない。俺の原稿の内容を知っている人間は出版社の人間しかいないはずだ。昔の作品ならまだしも、優輝とエリカの話は友人にも見せていないからだ」
逆に威嚇をするように眉を吊り上げる大成。二人はその大成を見て溜息をついた。2杯目の森伊蔵の水割りをコクリと飲むと優輝が呟いた。
「その主人公たち本人なのが分からないですか?」
「へ・・・?」
しばしの沈黙が流れる。隣の4人席の客二人が騒がしい。木星がどうとかの話で盛り上がっている。
「ふざけるな!」
大成が一言ぶつけると、
「どうしたら信じてくれる?」
とエリカが顔を近づけた。
「信じるも糞もないだろ? そんな話!」
「じゃあねぇ・・・私の誕生日のエピソードで、私がお父さんの車をぶつけちゃって優輝との待ち合わせの場所に行けなかった話は? 出版社の人間は知らないはずよ。だってカットされちゃったから」
そのエリカの話に見る見る顔が青ざめる大成。
「車シリーズなら僕が酔っぱらったお客さんに呼ばれて、お客さんのTT RSの運転をさせられて川に落ちちゃったエピソードは?」
「・・・!」
「あれもカットされちゃいましたよね。気に入っていたのになぁ」
整理がつかない大成。一気に残りのグラスを空けると、もう一杯を注文した。
「俺はどう解釈したらいい?」
「だから、そういうことよ。私達は本人よ」
ニコリとして大成の目線の先に焼き鳥の串でクルクルと円を描くエリカ。
「分かってくれましたか? 僕らはあなたが生んだキャラなんです」
「・・・・・・」
大成は眉をしかめて黙っている。空いたグラスを手に持ち、注文した森伊蔵を取りに立ち上がった。
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