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え、男の人......?
たしかに顔までくっきりはっきりと見えていた訳ではないけれど。
女性らしい体つきだった気がする。
大人な甘い雰囲気で。
二人がおっぱじめる間近のような雰囲気だった。
「えっ?でも私が見たのは女の人で......。」
「いやいや、完全に男ですから!」
男の人と......。
そういう雰囲気に......。
いや、演技だし!セリフなんだから!
でももしかしたら......?
「陸くんって男の人に興味あったりし───。」
「───しませんから。」
冷たく笑顔を張り付けたままにっこりと言われた。
笑顔なんだけれど「なんだこいつ......。」と言いそうな表情だ。
そ、そうだよね。勘違いかな?
「あっ、男の人が駄目な訳じゃないからね!?」
「だからなんで俺の恋愛対象が男前提なんですか!!」
ち、違ったか......?
否定している訳ではないけれど。
よかったのかな。
安堵していた。
「というか、あれ弟なんですけど。弟に恋愛感情寄せる兄って......。」
「え?弟って陸くんの?」
弟って陸くんの弟?
一目だけ見た弟さん。
陸くんに似てたな。見た目もそうだけど、中身とかが似ていた気がする。
「はい。練習に付き合ってくれただけですよ。」
「へえ。優しいんだね。」
「まあ たまには、ってだけですよ。」
「兄弟想いなんだねえ。」
いいなあ......。憧れるなあ......。
私はずっと一人っこだからそういうのないな。
兄弟とか姉妹がいるから大丈夫!とか。
そういうのないな。
経験したことない。
「よく喧嘩しますし、嫌な奴ですよ。」
「ふふ。とか言っても面倒見いいでしょ?」
「......。」
ツンと呆れたようにしていた陸くんもバツが悪そうに少しだけしゅんとしていた。
何も言えないでいるのか、図星を突かれたのか。
本当にすごいなあ。
「でもなんやかんや優しいよね。陸くんて。」
「そうですかね?」
「うん。そうだよ。」
「優しくないですけどねー。」
「まさか。」
優しいよ。本当に。
そうじゃなきゃ、今一人ぼっちの私のところになんかいないよ。
陸くんなりに心配してくれたんだろうな。
だから、こうして安心させようと和ませようとしてくれる。
本当に優しいよ。
でも、なんでわざわざ私のとこまで来てくれたんだろう。
私はドキドキと鼓動が早まるのがわかった。
少し緊張している。
頬が赤い。
恥ずかしい。見られたくない。俯くことで防ぐことにした。
すごく走ったみたいだったし。
疲れてるようにも見える。
私だけのためにだよね?
わざわざ?
こんなところまで?
走って一生懸命に来てくれたんだよね?
もしかして......?
「......じゃあ、なんで私のとこに来たの?」
「......そ、っれは前のことで勘違いしてるのかなって、気になって。」
「......そっか......。」
一瞬にして、その言葉だけで失望した。
一喜一憂してしまった。
そりゃそうだってショックするのと、落ち込むのと同時に感じた。
本当なら私が陸くんのこと好きなんだって気づいてほしい気もするけど。
まだいいや。
今日のことでわかった気がする。
ちょっとだけ期待してしまった。
私のこと好きなのかなって。自惚れた。
やっぱり踏み込むことは難しいかな。
だってきっと私が陸くんを好いていることを知ったら離れてしまう。
恋愛感情抜きでいる関係なのに、私が押し付けているから。
この関係が壊れちゃう。
私にとって陸くんといれるだけで すごいことなのに。
もっと離れたらどうしようもなくなる。
修復することは不可能だろう。
そしたら一方的にフラれちゃう。
そうなってしまうぐらいならば、いっそのこと悪人にでもなってこのままズルズルと幸せでいた方がいい。
私は知らないフリして。
陸くんを欺いてでも。
それしか今は考えられない。
いつかは、辞めなくちゃね。
「だとしても、あんなとこ見ちゃったら勘違いしちゃうよ。」
「......ですよね。すみません。」
「いやいや!仕方ないことだし、お仕事なんだから私に謝る必要ないよ!?」
「いや誤解させちゃいましたから。」
「......。」
やっぱり陸くんは優しいよ。
私のせいだよね。
私がこう言うから、私がこうするから。
私のことを気遣ってくれる。
あやふやなままでいいかな......。
駄目なんだろうけど。
「ねえ、今日の夜って用事ある?」
「ないですよ......?」
あえて私から誘うことにした。
陸くんは少しだけ頬が紅潮している。
もう少しだけつなぎとめるために。
もう少しだけこのままでいるように。
「......なら、私のお家来る?」
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