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「......い、っいやいや!俺はただの元同級生だよ!」
「ふーん。」
「......。」
海はやけに大人びた顔で俺を疑う。
間違っていない。
本当のことだ。
取り繕うように慌てて言葉を探した。
だって、俺も美和ちゃんもそれを理解した上で経ている。
だから、俺がとやかく言う権利も、美和ちゃんがとやかく言う権利もない。
お互いに利害の一致での合意だから。
「別に、兄ちゃんのことだから詮索はしないけど。」
「......。」
うちの三男は空気が読めるらしい。
まだ未成年にも関わらず、こんなにも大人だったとは。
見ないうちに、変わってたんだな。
俺が家を離れても、寂しくなかったみたいだ。
なんだ......。弟が巣離れしたようで少し寂しい気持ちも反面、安堵するのもある。
今日は収穫があったようだ。
ただ、美和ちゃんのことは諦めるしかないかなー......?
「で、いいの?」
「ん?」
「その人探し?」
「あー......うん。もういいかなあって。ハハハ。」
「......。」
やっぱりすごいな。
関心した。
俺が覚えている昔の海はよく喧嘩して、泣きわめいていて、俺が空に怒られていた。
些細なことで仲違いしていた。
おもちゃの取り合いとかもあったな。
年が近いのもあり、余計に気が合わなかった。
好きなものが一緒だったからこそかもしれない。
『───お兄ちゃん!それ僕の!』
『はああ!?!?先に取ったのは陸ですう!!』
新しく買ってもらったおもちゃで取り合いをした。
俺はこの前海が買ってもらったおもちゃを勝手に奪っていた。
お互いに物心つくぐらいで、まだ俺が七歳、海は五歳。
海はそのおもちゃで楽しそうにしていたから羨ましかったのかな。
だから、尚更。
『......うっ、うぅ......。』
目頭に涙の雫をたくさん溜めて、今にも泣き出しそうだ。
そんな海にうんざりしている。
またか、と恨みがましく睨む。
『あーあ、そうやって空兄ちゃん呼ぶのかよ。』
『うっ、......う。』
必死に泣かないようにと、拳を震わせてズボンを握りしめる。
海は俯いていた。
俺もさすがにここまでされると呆れてきた。
罪悪感があって渋々返した。
『......ほら、返すよ。』
『!?』
俺はおもちゃを突き返してさっさと離れようとする。
驚いていて、困惑している海は、安堵したのかぼろぼろと泣く。
俺は逃げるようにその場を離れようとする。
『......うっわ!!』
なぜか、裾を掴まれて逃げれない。
驚いた。
まさか海が俺を離さずに跡をつけていたとは。
放心状態の俺をよそに、海は唇を噛んで泣きながら声を振り絞っていた。
『......いっしょ、......いっしょ いて......?』
消え入りそうな声で顔も声も男らしくなくて。
必死に抵抗して、反逆するのかと思ったらただの甘えたがりだ。
俺はよくわからず、ただ隣にいるだけだった。
それから程なくして、数年後。
親や家庭的にも不安定になっていった。
そのせいか、空を中心として俺も海も前よりもっと話すことが増えた。
親が不仲なのは知っていた。
小さな頃からずっと。
気づかないフリをして、その年で既に大人や親に媚びを売り、愛想よくすることが癖になっていた。
おかげで表情なんていつでも操れた。
空にも誰にも知られたくなかった。
まして、弟の海なんてもっと知られたくなくて。
高校生になってから少しずつ変わっていた。
俺も海も思春期で酷かった。
いつからまた、昔みたいに笑いあってたのかな?
それすら危うい。
覚えていない......。
もう昔のことと言えばそうなんだけど。
「兄ちゃん、たまにしか会えない弟にちょっとは相談とかしたら?」
「え......。」
まさかそんなことを言われるとは......。
相談って言ってもな。
特にないし。
弟に言うことでもない。
「えー......?いや、海に言うことじゃないから。」
「じゃあ、男子高校生の意見も聞きたくない?」
「聞きたくない。」
「いいネタになると思ったのに。」
やっぱりお前はそういう奴だよ!!
ちょっとでも見直した俺を返せよ!!
あの感動を返してくれ。
「あっ、あの人兄ちゃんと店来た人じゃん。」
俺たちの家はとあるバーで、海と空は店を構えている。
店の手伝い感覚で気軽に楽しくゆるく仕事しているそう。
空は、昼は俺や芸能人のマネージャー。
夜は家のバーテンダー。
海は、昼は極普通の男子高校生。
夜は家の店員。
「え、嘘。どこ!?」
「ほらあれ。」
指差した方にはとぼとぼと、覚束ない足取りで歩く美和ちゃんがいた。
人混みのせいで遠い。
ここからだと人も相まって追い付けるかどうか。
いや、やっと見つけたんだ。
俺は駆け出した。
「え、兄ちゃん!?どこ行って......。」
「ごめん!またな。」
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