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▲▽▲─────
あーあ、行っちゃった。
兄ちゃん足速いからなー......。
にしても、あんなに必死になるほど追いかけるのか......?
そんなに惚れ込んでいるのか。
俺からはそんな風には感じなかった。
ただ、無意識に追いかけて行ったようだった。
あの人とはこの前会った程度で、知らないけれど。
俺はこんなにも美青年だというのにも関わらず、あのバーに来たとき、まったく動じなかった。
むしろポカンとしていた。
これって相思相愛じゃね?
「ねえねえ、海くぅん?」
「ん?」
連れていた女の子が押し寄せてきた。
俺の腕に絡み付いて、上目遣いで聞く。
「お兄さん、もう行っちゃったの?」
「ああ、うん。仕事が残ってたみたい。」
「そっか~......残念。」
「ごめんね。」
イケメンがいなくなって残念らしい。
兄ちゃんは黙ってれば目の保養にはなるんだよな。
ただ、陽気な感じがあるし気さくと言えばそうだけれど、何よりチャラい!
まあ、そういう俺も言えた権利はないけれど......。
「ううん。私たちは海くんがいてくれればいいの!」
「あはは、ありがとう......。」
兄ちゃん、ごめんね。
兄ちゃんにとっては一人の弟で家族だから、大切に思ってくれている。
でも、俺は生きたいように生きるよ。
後悔のないように。
ただそれが正しくないことはわかってる。
俺はオンナ遊びが酷いし、薄っぺらいやつだけど。
みんなには迷惑かけたくないから。
「ねね、次どこ行く?」
「うーん、俺はどこでもいいよ。」
「あっ!海くんだ、ラッキー!」
声をかけられて何かと思えば、同じ学校の女子たち。
しかも、なぜか息を切らしている。
走ってきたのか。
偶然ではないようだ。
「ちょっと、なんであんたたちがいるの!?」
「はあ?そんなの勝手でしょ!海くん私たちも一緒してもいいかな?」
かなりの大人数の女の子たちが合流することになったらしい。
こんなの拒否権なんてないようなものだ。
まあ、暇だったしいいけど。
「俺はいいよ。」
「本当!?ありがとう!」
こういう有象無象が多くて面倒なんだよな。
実はこのなかにも何人か食った奴もいるし。
ふと目が合って微笑んだ。
ただ口止めしている。
二人だけの約束と称して。
これだから勘違いオンナは好きなんだよな......。
やっぱり止められそうにないな。
「そ、そうだ。海くんのお兄さんすっごく格好いいんだよ!」
「ええ!?海くん、お兄さんがいるの!?」
「えっ、ああうん。」
俺の兄を見たからって、それだけでマウントとるのだけはやめてほしい。
身内はできるだけ避けたいからな。
......そうだ、兄ちゃんは今頃 あの人とも会えたのかな。
いいなぁ......たった一人に忠実なのって。
ただ、兄ちゃんは無自覚だったのが惜しいけれど。
俺って、結構 空気読んだよな?
まあ、頑張れ。
▲▽▲─────
「はあ、はあ......。」
人を掻き分けて、なんとか美和ちゃんに追い付こうとするも、すぐに見失う。
かと思えば、見つかって。
でも俺がいる場所からは遠くて。
電話も通じないし、大声をかけても届かない。
「っ!......すみません、少し......。」
人の間を走るのも一苦労だ。
祭りということもあってか、より一層混雑している。
やっぱりすごいよな。
イベント事が大好きな日本人だからか、いつもの倍以上に多い。
いや、日本人関係ないだろう!
みんな大好きだよな、イベント!
「きゃっ!危ない!」
「気をつけて。」
「ありがとう!」
目の前でカップルがイチャイチャしている。
いつもなら、こんな気持ちにならないのに。
どうでもよくて、無関心なのに。
好きの反対は無関心なんだ。
それなのに俺は......。
チンタラしてんじゃねえよ!!
ふらふらすんなよ!!
支えてもらわないと歩けねえのかよ!!
そう、怒りだしてしまいそうだ。
かなり重い僻みなのは重々承知だ。
ただ、羨ましかった。
俺だって、今頃は......。
いやいや!捕まえなくちゃ。
もう花火は終わってしまった。
本当なら、いい感じのムード演出として背景に花火が散っているといいんだけど......。
それに、花火って女性の性欲が上がるらしいし!
ただ、もう手遅れだ。
そういう流れもなさそうだ。
美和ちゃんに近づいているのに、ほど遠くて───。
俺は深く息を吸い込んだ。
「すぅ......美和ちゃん!」
「えっ......!?」
やっと、届いた。
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