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▲▽▲─────
どうしてか、陸くんの声がした。
そして振り返れば本当にいて。
夢なんじゃないかと、嘘なんじゃないかと思ってしまう。
それでも目の前にいる。
嬉しいような、少しだけ気まずいような......。
私は立ち止まっていた。
「はあ、はあ、美和ちゃんがいてよかった......。」
「......。」
嬉しい。本当に嬉しい。
こんなところに来たのに、いたなんて。
会えて嬉しい。
会いたいって思ってたから、余計にかな。
まさか会えるなんて思ってなかったから。
「美和ちゃん、二人で行きませんか?」
「うん。」
嬉しくて、泣いてしまいそうで。
涙ぐんだ。
また会えるなんて思ってなかった。
もう無理だって思ってた。
事務所の方に行って確かめたのにいなかった......。
諦めようって思ってたのに。
陸くんは手を繋いでくれて、引っ張ってくれた。
私を守るかのように。
それが嬉しくて、こんなにも最低なことを考えていた自分が、情けない。
陸くんなら他の女の子といるんじゃないかって、そんな最低なことを考えていた自分が嫌だ。
罪悪感に苛まれる。
陸くんはあえて泣きそうな私に何も聞かなかった。
私が見られたくないことをわかってて。
陸くんが連れてくれた場所は奥地だった。
人はいなくて木々が多いからか、少しだけ涼しい。
ベンチがあって、そこに座った。
「......。」
「......。」
陸くんは手を繋いでくれるだけで、きっと聞こうとはしない。
無理やり何があったか聞かない。
嬉しいようで寂しいような......。
そんな不安になる。
たぶんまだ情緒が安定してないからだろうな。
「あのね、陸くん。」
「はい。」
「あの時のことってまだ覚えてる?」
「もちろんですよ。」
陸くんが事務所の一室で女性と戯れていたこと。
それを見ている私に気づいて追いかけた陸くんは必死に弁解しようとしていたけど、私が拒んだ。
そして修也さんが来てくれた。
それに甘えた。
だから、ほとんど私たちは絶縁状態だった。
連絡もなし。
音沙汰もなし。
「私と陸くんはそういう関係だし、恋人でもないから縛りたくないし、わかってるんだけど......。あの時の女の子とはそういう関係なの?」
「あれは、女っていうか......女として見てないっていうか......。」
「それって私と同じように肉体関係 持ってるんだ。」
まさか重ねられてたとは。
でも陸くんみたいな格好いい人ならそんなのもあるのかな。
モテるし、いろんな女の子も選り取り見取りなのかな。
芸能人だから少しぐらい優遇されることもあるだろう。
一般人とは扱いが違うから。
「......え!?違いますよ!!そんなのじゃないです!!」
陸くんは断固拒否して、慌てたように否定する。
焦って首を横に振る。
そんな一生懸命にされてちゃ、こちらも攻める気になれない。
「え......?でもそういう雰囲気じゃなかったっけ?」
「そういうって......。うーん、そんな風に見えましたか?」
「うん。」
声だけだったし、少し覗いただけだからはっきりとはしていないけど。
でも、私と寝た時みたいに、甘い雰囲気が流れていた気がする。
甘ったるくて、 気持ち悪いくらい。
私には不快に見えた。
たぶん、相手が陸くんだったからだろうな。
「......それはよかったんですけど、演技ですよ?」
「え?」
「そういう台詞があって、台本の読み合わせしてただけですよ。それを少し動きを入れただけです。」
「..................あ、なるほどねえ。」
なんかしんみりしたような言い方になったけど。
正直、追い付かない......。
あれはそういうのではなく?
台詞?台本?演技?
確かに、芝居染みてたかな?
「そうなんスよ。最近やってるのがそういう不倫物で。だから、最近うつっちゃってて......。言動とかも意識してなくてもそういう風な言い方しちゃうんですよー......。」
仕事病っていうのかな?
不倫物はすごく大変だと思うし、陸くんにはそういう体験もないから、難しいと思うのに。
すごいなあ。
「やっぱりそういうのだと女性との交流も多いんじゃない?」
少し意地悪く言った。
陸くんが他の女の人とそういうことがあったとしても、私には関係のないこと。
何も関与していないから。
「仕事ですよ。そういう台詞があっても仕事とプライベートは違いますから。」
「そっか......。」
なんか意外かも。
高校の一年生ときは派手な見た目で、少し素行も悪くて正直近寄りがたくて関わりたくない人だった。
いつも女の子や男の子の中心人物で、チャラくって怖かった。
でも、楓ちゃんたちを通して知り合った。
案外、気さくな人で人見知りな私にも歓迎してくれた。
陸くんは はやと君たちといてからは、うるさい人たちともつるまなくなった。
見た目は変わらなかったけど、態度とかいろいろと。
楓ちゃんにフラれてから少しずつ陸くんが吹っ切れたように他の怖い女の子たちに手を出していった。
寂しさを紛らわして、モノのように扱って本能のままに動く女の子たちをはべらして。
私はそれを見てるだけしかできなかった。
でも、私は はやと君が好きで、陸君は楓ちゃんを好きだった。
お互いがよくわかっていた。
決して報われないって......。
はやと君と楓ちゃんは付き合ってて、お似合いだったから。
私も納得するぐらい......。
陸くんは弱音なんて吐かなかった。
前向きに捉えて、あの二人が幸せそうなのを喜んでいた。
心の中では悲しくて悔しくて辛くて、恋心なんて一瞬にして消えてしまっていたのに。
笑っていたけれど、親友に奪われた喪失感はあったと思う。
私はそんな陸君に惹かれていたんだ。
私は当時、悲しくて泣いていたけれど、陸くんは泣かなかった。
笑顔だった。
でも、傷付いたら弱くって......ギャップ萌えっていうのはあるのかもしれない。
好きだなって思えた。
でも、陸くんは楓ちゃんが好きだから......!
一番報われてない可哀想なのは私だったのかな?
恋して幸せだって勘違いしてた。
今だって、陸くんはもう他の子に夢中で......。
「その人ってどんな人なの?」
「えっ、......うーん、特には......?」
「特徴とかは?いいところとか!」
「まあ、素直で良い子なんじゃないでしょうか......?」
素直、か......。
私には難しいかも......。
早々に諦めてしまいそう。
「てか、そんなに聞いても意味ないですよ!あいつ、男ですよ!?」
「............ん?」
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