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数日後。 一応テストに受かったらしい俺は、翌日から雑用に従事していた。 最初はルイスの為なんて思って、意欲的にこなしていたが、同じ事を繰り返していると、さすがに嫌気がさしてくる。 大きく溜め息をし、与えられた机に突っ伏す。 二人とも交渉とか言って事務所に居ないのもあって、余計にやる気が出ない。 「・・・本当にこんな事やる必要あんのかな・・・?」 書類整理して、リストに入力して、棚にしまう。 今時、紙で残しておく必要があるのだろうか。きちんとバックアップしておけば、大丈夫だと思うのだが・・・ルイスには何か考えがあるんだろう。 背もたれにふんぞり返り、リストをスクロールする。 会社を設立した時から作られていて、この会社の歴史だ。 最初は、本当に簡単な内容で、だんだんと難しい内容に変化していき、数年前にまでなると、どうやって二人でやったのだろうと思う内容が並んでいた。 気付くと次から次へと棚から書類を取り出し、夢中になってめくっていた。 突然、背中に誰かが覆いかぶさって来た。驚いた俺は変な声を出す。 「んふふふふっ、何その叫び声」 「なんだチャックかよ・・・。心臓痛いわ」 「まだ、こういうの苦手なの、アレクは?」 「ちょっと、それで呼ばないでって言ってるじゃん。あれ、ルーは?」 「残ってる」 「何で置いて来たの!?」 「だって、一人で大丈夫って言って聞かないんだもの」 「・・・あんたさ、分かってんの? あいつはさー・・・」 「ルーを狙ってる」 「だったら!」 「俺が何もしないで戻って来ると思う?」 確かに。 そうですよね、あんたがルイスの事で油断する事は、絶対にないですもんね。 「・・・ですよねー・・・」 「わかればよろし」 んふっと笑い、頬にキスをしてくる。 「やめろて」 「耳のラインが、ルーとそっくりだよねぇ・・・」 どこかうっとりとした口調でそう言いながら、耳元にキスをされる。 そんな耳元でそんな事されたら、その気が無くてもその気になってしまうのは、俺が若いからだろうか。 「なに、誘ってるの?」 「さあ?」 くすくすと笑いながら、耳元のキスを首筋に下ろしてくる。 チャーリーとは、兄のルイスを取り合う恋敵ではあるが、同時に愛し合ってもいる。 小さい頃、俺はこの人が苦手だった。 兄を独り占めしてしまう共同経営者で、そして、意地悪だった。 虫も殺さないような顔をしている癖に、自分にとって価値が無いと思った瞬間、さくっと切り離す。兄の仕事を扉の隙間から伺っている時、そんな現場を何度も見かけた。 俺が大学に入った頃、チャーリーにその事を伝えたら、ひどく驚いた顔をされ、次いで、妖艶に笑った。 その笑顔が綺麗で、なぜか兄のルイスの笑顔と重なり、気付いたらこの人にも恋をしていた。 だから、こういう関係になるのはあっという間だった。 ルイスはたぶん気付いていない。いや、こういう関係があるという認識すらないのかもしれない。とても純粋な人だから。 「ん・・・うっ・・・」 「はあ・・・っ。今日はどっちがいい?」 「上」 「また?」 「いや?」 「でかい男を組み敷いて楽しいの?」 「すっごい楽しい。お前可愛いもん、アレク」 「だから、それで呼ぶなって」 「ほら、可愛い」 チャーリーは自分より10cmは身長が高くて肩幅も大分広い俺に、そんなことを言う。 顔を赤らめると、目元にキスを落としながら、再び可愛いと囁いた。 口づけをかわしながら、互いのベストやシャツに手をかけ始めた時、事務所の扉が勢いよく開かれ、そして閉じられた。 どうもルイスが帰って来たらしい。 チャーリーはさっさと身支度を整え、ルイスの元に向かう。俺も慌ててその後を追った。 ルイスは荒れていた。 俺は初めて見たそんなルイスの姿に驚きを隠せない。 いつも冷静沈着で、でもどこか抜けててほんわかしていて・・・なのに、今は机の上に書類を手当たり次第に崩して回っている。 チャーリーは何とか止めようとしているが、20cm近い身長差は伊達ではない。腰に引っ付いている子供の様にしか見えない。 「ルー! どうしたのさっ!」 物音に負けない様に声を張り上げるが、ルイスはこちらに目を向けようともしない。 ちっと舌打ちをし、ルイスの肩を正面から掴む。 身長は少し低いけど、力はこっちの方がはるかに強い。暴れるルイスを無理矢理椅子に座らせると、途端に大人しくなった。 がっくりと項垂れたルイスの所に椅子を持ってきて、周りを囲む。 頭を抱えて座り込んでいるルイスの背中を擦ると、徐々に落ち着いてきたようで、顔を上げ背もたれにもたれる。 「わりぃ・・・」 そう言って目を瞑る。 「兄貴・・・?」 名前ではなくそう呼ぶと、そのままの姿勢でふふっと微笑んだ。 「久しぶりだな、お前にそう呼ばれるの」 「そうだっけ?」 「そうだよ。・・・ね、チャック」 「何?」 「チャックの言う通りだった。今後は一切、あいつと取引はしない」 「分かって頂けてなにより。・・・潰していい?」 「・・・任せる」 「任された」 額にキスを一つ落とすと、ギラリと目を光らせ自分の机に座る。そして、PCを立ち上げると物凄い勢いで何やら打ち込み始めた。 しばらくその様子を見つめ、再びルイスに向き直ると、ルイスはじっとチャックをみつめたままだった。 その瞳は、どこか悲しそうだった。
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