6.

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翌日、ルイスは熱を出した。 慌てて掛かり付けの医者を呼んで診てもらう。 「まあ、恐らく知恵熱の様な症状でしょうな」 「知恵熱? 知恵熱って子供がなるやつ?」 「大人でもなるものなんですか?」 「あくまで”ような”です。子供のそれとは違いますがね。大きなショックを受けたりすると、脳がオーバーヒートして発熱として現れるらしいですな」 医者の言葉に、俺とチャーリーは顔を見合わせ、軽く苦笑いする。 そんな俺達を横目で見ながら器具を鞄にしまい込み立ち上がると、医者は爽やかな笑顔を保ちつつ、瞳にだけいやらしさを滲ませながら、 「まあ、昨晩は大変お楽しみの様ですからな。きれいなお兄様を持つと大変ですな」 と言い、「では」と帽子を軽く掲げて部屋を後にした。 ぽかんとその後ろ姿を見送った俺は、 「・・・あんのヤブ医者め・・・」 というチャーリーの悪魔の様な呻き声で我に返る。 視線をやると、ぎりぎりと歯噛みしながら、扉を睨んでいる。 「ちょっと、ザン。あいつなにっ!?」 「ウチの掛かり付けの医者」 「んなこたわかってるよっ!」 「ん?」 「あいつもルー狙いなのっ!?」 「あー・・・」 俺はチャーリーの元からルイスのベッドへ移動し腰を掛ける。チャーリーは、おいとかこらとか言いながら、俺の後をついて来た。 「ねえ、聞いてる?」 「聞いてるよ。キャンキャンうるせ」 「はあ?」 首元をぐいと持ち上げられる。 チャーリーの顔はマジで、このままでは完全に殺(や)られるだろう。 俺はまあまあと言いながら、両手を上げ逆らう気は無い事を行動で示す。手の力が緩んだのでそっと手を重ね、言った。 「あの人、昔っからああだから。ウィットの利きすぎたジョークを必ず置き土産にしてく」 「ジョークにゃ見えん」 「昔、役者やってたんだって。結構人気あったらしいよ?」 「だから?」 「気にすんな」 ちゅっとチャーリーの目を見上げながら、まだ俺の襟元を掴んでいる手にキスをする。全く納得のいかない顔でチャーリーは俺を見つめ返す。 その時、横になっていたルイスが起き上がる気配がした。 しかし、熱と昨日の行為のせいで力の入らない体は言う事を聞かず、すぐに諦めて枕に頭を預ける。 二人で顔を覗き込むと、熱で潤んだ瞳がこちらを順番に見つめた。 (上気してる顔が色っぽい・・・) とか思わずドキドキしていると、顔面にルイスの左手が飛んできた。 「あいたっ」 別段痛くはないけれど、とりあえずそう言っておく。 「にやつくな」 いつもの余裕のある態度はどこへやら。 最大限の機嫌の悪さを表しているルイスは、そのまま隣で同じようににやけていたチャーリーの顔面に左手を叩きつける。あいたと声が上がるが、俺と同じで痛さは感じていない様だ。 「今、何時?」 「十一時」 「そか・・・」 再び起き上がろうとしたので、二人でそっと押し返す。 「あ?」 「今日の予定は全部キャンセルしといた」 「は?」 「ルーがね、調子が悪いって言ったら、みーんな喜んでスケジュール調整してくれたよ。安心して眠りな?」 「・・・・・・」 文句を言う気力も無い様で、持ち上げようとしていた上半身を、ベッドに三度(みたび)横たえた。 はあっと溜め息とも吐息ともとれる息を吐き出し、左腕で目元を覆う。しばらくすると、すーすーと寝息が聞こえてきた。起こさない様にそっと腕を顔から外し、それぞれ頬にキスを落とすと寝室を後にした。 さらに翌日。 俺達の甲斐甲斐しい看護で全快したルイスは、正に馬車馬の如くこき使った。その次の日も、さらにその次の日も。 ようやくルイスの溜飲が下りたのは、一ヶ月ほど経過した頃。そして、また、ご褒美チャンスが訪れた。 (今度こそ、ルイスを抱くんだっ!) と、気合がいつも以上に入ったのは言うまでもない。 「さ、いくぞ」 「おっけー」 「こっちもいつでもおっけー」 「All right.・・・Here we go !」 完 NEXT→ あとがき
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