13人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
6.
翌日、ルイスは熱を出した。
慌てて掛かり付けの医者を呼んで診てもらう。
「まあ、恐らく知恵熱の様な症状でしょうな」
「知恵熱? 知恵熱って子供がなるやつ?」
「大人でもなるものなんですか?」
「あくまで”ような”です。子供のそれとは違いますがね。大きなショックを受けたりすると、脳がオーバーヒートして発熱として現れるらしいですな」
医者の言葉に、俺とチャーリーは顔を見合わせ、軽く苦笑いする。
そんな俺達を横目で見ながら器具を鞄にしまい込み立ち上がると、医者は爽やかな笑顔を保ちつつ、瞳にだけいやらしさを滲ませながら、
「まあ、昨晩は大変お楽しみの様ですからな。きれいなお兄様を持つと大変ですな」
と言い、「では」と帽子を軽く掲げて部屋を後にした。
ぽかんとその後ろ姿を見送った俺は、
「・・・あんのヤブ医者め・・・」
というチャーリーの悪魔の様な呻き声で我に返る。
視線をやると、ぎりぎりと歯噛みしながら、扉を睨んでいる。
「ちょっと、ザン。あいつなにっ!?」
「ウチの掛かり付けの医者」
「んなこたわかってるよっ!」
「ん?」
「あいつもルー狙いなのっ!?」
「あー・・・」
俺はチャーリーの元からルイスのベッドへ移動し腰を掛ける。チャーリーは、おいとかこらとか言いながら、俺の後をついて来た。
「ねえ、聞いてる?」
「聞いてるよ。キャンキャンうるせ」
「はあ?」
首元をぐいと持ち上げられる。
チャーリーの顔はマジで、このままでは完全に殺(や)られるだろう。
俺はまあまあと言いながら、両手を上げ逆らう気は無い事を行動で示す。手の力が緩んだのでそっと手を重ね、言った。
「あの人、昔っからああだから。ウィットの利きすぎたジョークを必ず置き土産にしてく」
「ジョークにゃ見えん」
「昔、役者やってたんだって。結構人気あったらしいよ?」
「だから?」
「気にすんな」
ちゅっとチャーリーの目を見上げながら、まだ俺の襟元を掴んでいる手にキスをする。全く納得のいかない顔でチャーリーは俺を見つめ返す。
その時、横になっていたルイスが起き上がる気配がした。
しかし、熱と昨日の行為のせいで力の入らない体は言う事を聞かず、すぐに諦めて枕に頭を預ける。
二人で顔を覗き込むと、熱で潤んだ瞳がこちらを順番に見つめた。
(上気してる顔が色っぽい・・・)
とか思わずドキドキしていると、顔面にルイスの左手が飛んできた。
「あいたっ」
別段痛くはないけれど、とりあえずそう言っておく。
「にやつくな」
いつもの余裕のある態度はどこへやら。
最大限の機嫌の悪さを表しているルイスは、そのまま隣で同じようににやけていたチャーリーの顔面に左手を叩きつける。あいたと声が上がるが、俺と同じで痛さは感じていない様だ。
「今、何時?」
「十一時」
「そか・・・」
再び起き上がろうとしたので、二人でそっと押し返す。
「あ?」
「今日の予定は全部キャンセルしといた」
「は?」
「ルーがね、調子が悪いって言ったら、みーんな喜んでスケジュール調整してくれたよ。安心して眠りな?」
「・・・・・・」
文句を言う気力も無い様で、持ち上げようとしていた上半身を、ベッドに三度(みたび)横たえた。
はあっと溜め息とも吐息ともとれる息を吐き出し、左腕で目元を覆う。しばらくすると、すーすーと寝息が聞こえてきた。起こさない様にそっと腕を顔から外し、それぞれ頬にキスを落とすと寝室を後にした。
さらに翌日。
俺達の甲斐甲斐しい看護で全快したルイスは、正に馬車馬の如くこき使った。その次の日も、さらにその次の日も。
ようやくルイスの溜飲が下りたのは、一ヶ月ほど経過した頃。そして、また、ご褒美チャンスが訪れた。
(今度こそ、ルイスを抱くんだっ!)
と、気合がいつも以上に入ったのは言うまでもない。
「さ、いくぞ」
「おっけー」
「こっちもいつでもおっけー」
「All right.・・・Here we go !」
完
NEXT→ あとがき
最初のコメントを投稿しよう!