4.

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アルバイト開始から、一年が経過しようとしていた。 ルイスの会社の三人目としての認識が大分広まっていて、俺への依頼も少しずつ増えてきていた。もちろん、二人には全然及ばないけれども。 親父の耳にも入っているらしく、早く戻って来いと言われる。二人で。 チャーリーの能力も気になっているらしく、三人でもいいぞと、ギラギラした瞳で言われる様にもなった。経営者として、ではなく、男としての興味もあるらしい父親に血の繋がりを感じ、軽く溜め息が出た。 まあ、チャーリーなら、親父にも抱かせてくれるんじゃない? なんて思うけど、絶対に言ってやらない。 俺は今、この生活を気に入っている。それを壊す奴は、何人(なんぴと)たりとも許さない。それが血を分けた肉親であっても。 「準備はいーい?」 「ああ、いつでも」 「俺も」 「それじゃ、いっくよー」 俺のレベルも相当上がったという事で、今までやったことのない規模の仕事に挑戦する事になった。二人だと限度があるから、今まで手を出さないでいたらしい。それ位、俺も戦力になれてきたのだと思うと嬉しいし、頑張って良かったと本当に思う。 カタカタカタ・・・。 三人のキーボードをタイプする音だけが響く。音楽を奏でている様な錯覚を起こす。とてもとても原始的な音楽を。 気分が高揚し、普段よりも視野が広くなるのを感じる。 いつもこの瞬間が楽しい。それに、今日は三人なので、余計にだ。 視線をあちこちと動かし、瞬時に判断を行う。三人で一つの事をやるのだから、連携がキモだ。たまにルイスから、インカムで一言二言指示が飛んでくるだけで、それ以外はなにもない。二人の行動を予想して、その時々の最良と思われる事をそれぞれがそれぞれでやる。間違いなく俺らだから出来る芸当だろう。 『これで、ラスト』 ルイスの声がインカムから聞こえると、俺とチャーリーはキーボードから手を離す。 ルイスから「Finish」とネイティブの俺が聞いても惚れ惚れする英語が聞こえる。 みるみるうちに視界がいつもの広さになった。 ふうっと息を吐き、立ち上がる。 「ザン」 声の方を向くと、ルイスが両手を広げ微笑んでいた。 それに導かれるままにルイスを抱きしめると、よくやったと言う様に、背中をポンポンと叩かれる。首筋に頭を沈めると、ルイスはくすぐったそうに身を捩ったので、気を良くした俺は、そこに軽くキスを落とす。機嫌が良いルイスは、いつもの様に怒る事なく、それを受け入れる。 「ふふ。くすぐったいよ、ザン」 「ちょっとー、ザンばっかりズルいって」 チャーリーがルイスの後ろから覆いかぶさり、俺と同じように首筋にキスを落とす。たぶん無意識なのだろうけれど、「んっ」という鼻にかかった吐息が、とてつもなく色っぽい。 チャーリーも同じ事を考えていたらしく、目が合うと色を含んだ瞳でにやりと笑った。 「二人とも、もういいだろ? 暑苦しい」 「ルー、そろそろ流されてみない?」 「何に?」 「そりゃ、僕達二人にでしょ」 「ん?」 「ルーはさ、気付いてるんだよね? 君は頭が良いから」 「んー?」 「そうなの?」 「だっていつも誘ってるじゃない」 「どこが?」 「全身で。知らないなんて言わせないよ。ね、ザン?」 「うん。俺なんか、いつもムラムラしてる」 「なんで俺?」 「あんたみたいな綺麗な生き物、見た事無いよ、兄貴」 「僕も。初めて会った時から君が欲しくて堪らなかった」 ルイスは両頬にキスを受け、くすぐったそうに微笑んでいる。 「だから、何で俺?」 「何度も言わせないでよ、兄貴」 「ほんと、天性の誘い受だよね、君は」 「意味分かんない」 くすくすと笑うルイス。しかしその表情は満更でもなさそうで、先ほどのチャーリーの言葉を裏付けている様に見える。 体を起こし、ルイスと向かい合う。 ん? という様に小首を傾げる仕草が、エロ可愛い。これを自然と出来る三十歳の男は、ルイス以外に居ないだろう。居たら逆に驚きだ。 じっとルイスの瞳を見つめる。 深い青のその瞳は、濡れた様にキラキラとしていて、宝石というよりはキャンディを連想させた。 (口に含んだら、きっとすごく甘いんだろうな・・・) ゴクリと唾を飲みこむと、ルイスは面白そうに眼を細める。 そして、 「ご褒美、欲しい?」 と、ちょっとだけ目元を赤くしてそう言った。
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