第18話 きっかけは自分で作るもの

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第18話 きっかけは自分で作るもの

…といっても、じゃあ何が変わるんだというと、今までとあまり変わらない。 1日経ち、2日経ち… 普通に大学生活を送り、賢司と普通に接する。 まぁ、いくつか講義かぶってるし。一緒にいる時間はそれなりに長い。 でも、待て、ダメだろ。 普通に過ごしていれば分かるかもしれないけど、積極的に賢司に関わらないと、賢司への気持ちが分からないじゃないか。しかも期限が決まっているんだ。1ヶ月は結構短い。 「け、賢司!」 「ん?」 「今日さ、家に行ってもいいか?」 「…別に構わないけど」 焦った俺は賢司の家を訪ねることにした。いや、特にどうこうしたいってわけじゃないんだけど。でも賢司もあまりに普通だし、これじゃいつまで経っても進展しないまま最終日を迎えてしまいそうだ。 「お、お邪魔しまーす…」 「何でそんなビクビクしてんだよ。取って食ったりしないよ」 「べ、別にそんなこと思ってない」 「はは」 賢司は快く迎えてくれた。 リビングに通されてすぐ、本が目に入った。 いくつか床に山積みになっている。 「片付けしてたんだ。散らかってて悪いな」 「え。悪いな、なんか」 「気にすんな。お茶しかないけど、いいか?」 「あ、何でも…」 「さっきから何でそんなに緊張してんだよ。面白いからいいけどさ」 賢司はくすくすと笑いながらキッチンでグラスの用意をしている。 俺はソファーに座り、部屋を見渡す。 賢司はわりとセンスがいいと思う。黒を基調としたカーテンや家具、それとお洒落な照明。 「在学中の金は親が出してる」とは言っていたけど、家具自体は賢司が選んだらしい。 そういえば、働き始めたら返すとか言っていたな…律儀な奴。 「ま、適当にくつろいで」 「ん?あ、ああ、ありがとな」 持ってきてくれたグラスを手に取り、口をつける。どうやらだいぶ喉が乾いていたようで、すぐに飲み終わってしまいそうだ。でもそうすると、いよいよどうしたらいいか分からなくなるので、ちょっとずつ口に含むことにする。 ちびちびと飲みながら、本の整理をしている賢司の後ろ姿をじっと見る。 上背が結構あるんだよな。羨ましい。 細身に見えて、あれで結構筋肉があるほうだ。 中学の頃から賢司の背を抜きたくて、牛乳を大量に飲んだこともあった。 (…とにかく、確かめられればいいんだよな) ふと思い付き、そろりと賢司に近づき、後ろから手を伸ばす。ぎゅ、と抱きついたら本がバサバサとこぼれ落ちた。 「…っ!!…は、晴翔。何だよ」 「いや、なんかこう…何かしないと、好きとかそうじゃないとか分かんないよなぁ、と」 「…。前から思ってたんだけどさ」 「ん?」 「晴翔って、開き直ると強いよな…」 「褒め言葉として受け取っとく」 今まで賢司を"そういう対象"に見てこなかったから、改めて考えるとなると、時間はいくらあっても足りない。 「つーか、お前さ、めっちゃ心臓の音早くね?!なんで?!」 背中越しに耳を当てると賢司の心臓の音が聞こえてくる。ものすごい早い。全力疾走でもしたのかよってくらいの早さでビックリするんだけど。 「お前…っ、ほんとさぁ…」 「な、なんだよ」 キッ、と睨むように見られる。 でもうっすらと顔が赤い。直視するとわりと情けない顔だ。 「晴翔に抱きつかれてるからだろ…!」 「へ」 俺はその言葉を聞いて、やっと自分が何をしているのか自覚した。ぶわ、と顔に熱が集まる。 「お前俺のこと大好きかよ…」 「散々言ってるだろ…」 「…」 「…」 ぱ、と離れたけど、まだ賢司の鼓動が聞こえるような気がした。 「唐突はやめてくれ…不意打ち過ぎて心臓が持たない」 「わ、分かった」 「…ったく」 賢司が赤い顔のまま、俺を引っ張ってソファーまで連れていく。すとん、と座らされ、賢司も横に腰かけた。 「ん」 「…何?」 そして片手を差し出されたが、意図がわからず首をかしげる。すると、ぎゅ、と手を握られた。 「な、何だよ」 「俺のこと触って、ドキドキするか確かめたいんだろ?まずはここから、な」 「なるほど」 握手、は、まぁ…別にドキドキしない。 これくらい友だちならするもんな。 「じゃあこれは?」 次に、指を絡ませ、いわゆる恋人つなぎになる。確かにこれは友だちだとやらないかもしれない。 「…ええと、嫌じゃないな」 「ドキドキする?」 「んん…何か、むず痒い感じ…」 「普通とは違う、って?」 「違うと思う…」 「ふーん…」 つつ、と空いた方の指で頬をなぞられる。 くすぐったい。何とも言えない不思議な気分になり、何か掴めそうで、じっと賢司を見つめる。 「…夕飯、食う?」 「…、…へ?夕飯?」 「そう。食うんなら作る」 賢司は俺から離れ、キッチンに向かう。 突然熱が離れたからか、周囲の空気がひんやりしたような気がした。でも、手は…まだちょっと、あったかい、かな。 「ええと、食べる」 「分かった」 賢司は何もなかったかのような平然とした顔で 料理の準備を始めた。 賢司と俺はこの後、特に何事もなく… とりあえず以前のように楽しい時間を過ごせた。
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