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第4話 変化した関係
賢司と初めて会ったのは中学の時。小学校は別だったけど、そこからは高校・大学も一緒だ。賢司とは親友、…だと俺は思ってたから、同じ学校に通えることは単純に嬉しかった。登下校も部活も、休みの日もほとんど一緒にいて、色々な話をして、楽しかった。
俺が『運命の相手を探してるんだ』と言った時も、笑ったり茶化したりしないで、『見つかるといいな』って返してくれた。
何度も恋をして、フラれて(告白して玉砕したこともあるし、先に相手に恋人ができてしまうこともあった)、その度に賢司や美那が慰めてくれた。 それなのに、この前は「"運命"なんて無い」と否定され、挙げ句の果て、望まぬ番にされてしまった。
ずっと心の中で俺のことを笑っていたんだろうか。それとも煩わしかったんだろうか。苛立たしかったのかもしれない。親友だなんて思っていたのは俺だけで…本当は俺のことが嫌いだった、とか。
αの中には、Ωを徹底的に排除する人もいる。 自分の理性を自分の意思とは関係なく奪われてしまうことが恐ろしい…と言い、避ける。毛嫌いする。嫌がらせをする。
でも、
「賢司はそんな奴じゃ、ないよな」
俺の知ってる賢司は、そんなことをするような奴じゃない。違う。きっと何か理由がある。勇気を出して聞いてみたら、もしかしたら、何か変わるかもしれない。
賢司の家のインターホンの前に立ち、深呼吸をひとつ。大丈夫。大丈夫だ…落ち着いて話をしよう。ボタンを押すと、ピンポン、と高いチャイムが室内で鳴っているのが分かった。急ぎ足の足音が聞こえて、ドアがガチャリと開く。
「晴翔」
「……賢司」
賢司は俺の顔を見るなり、にこ、と微笑んだ。いつもと変わらない様子で、もしかしたら今までのことが夢だったんじゃないかとすら思えてくる。
「まさか晴翔から来てくれるなんて思ってなかった」
「…話がしたい。賢司に聞きたいことがあるんだ」
「ああ、分かった。とりあえず中に入ってくれ」
「お、おう」
リビングに通され、緊張しながらソファーに座った。その隣に賢司が座る。何だか普段より距離が近い気がするのは何故だろう。
「なぁ、賢司、あのさ」
「…ほんと、無防備だよな」
「え? …っ、うわっ?!」
話そうとした瞬間、突然正面から抱きしめられた。後頭部と背中に手が回され、耳に賢司の吐息がかかってゾクリと背筋に痺れが走った。
「や、やめろよっ!」
「何で?俺たち番になったんだし、これくらい許せよ」
「つ、番は、お前が無理矢理…っ」
「ああ、そうだ。でも、そんな風にお前を番にした奴の家を訪ねてくるなんて、危機感なさすぎだと思わないか? 襲われても文句言えないだろ」
「…っ、ひゃ?!」
ぺろり、と耳を舐められ、甲高い声が出てしまった。顔に熱が集まる。何なら、少しずつ体も熱を帯びてきてしまっている気がする。ダメだ、抵抗する気力がどんどん削がれていく。そもそも押し退けようとしても、びくともしないけど。
困ったように目線をさ迷わせていると、ポケットに入れていたスマホから通知の音が鳴った。そしてその振動でこぼれおちて、画面の文字が見えてしまう。
「この名前、あの『先輩』だよな」
「…、そ、うだけど…」
「まだ連絡取ってるんだな」
「休んでたから、心配してくれて」
「へぇ…。まぁでも、先輩のことはもう諦めないとな」
「!!」
改めて自分以外から告げられた事実に、胸が締め付けられるような、胃がよじれるような、そんな気持ちになる。苦しい。
「お前が"運命"を信じても、俺が全部否定してやるよ。まぁ、俺と番になったんだから…どんなに"運命"の相手だって思う奴に会っても、拒絶反応でそいつと触れ合うことはできなくなるけどな」
「なん、で…。…俺、お前に何かした?」
「ん?…はは、晴翔は自分が何かしたか、って考えてくれてるんだ」
「違うのか…?」
「晴翔は何も悪くないよ」
にこりと微笑まれ、唇を重ねられる。頭がついていかなくて、俺はそれを受け入れることしかできなかった。
「…ん、んんっ」
「晴翔…口開けて」
「ん、んん…んぐ、んむぅ…」
「強情だな」
それでも何とか、擦り切れそうな理性と勇気を振り絞って、ささやかな抵抗をする。嫌だ、と首を振ると、賢司はこつん、と額を合わせてきた。
「なぁ…こっち向いてくれよ。俺を見て、晴翔」
「…、っ」
まただ。賢司はずるい。
俺のことを力ずくで押さえつけてくるくせに、俺に拒否されると苦しそうな顔で躊躇う。いっそ最初から最後まで俺の気持ちなんて無視して強引に組み敷いてくれればいいのに。
その方が俺も、心置きなく嫌うことだって、できるのに。
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