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ラウルフは困ったようにうーんとしばらく唸ってからこう答えた。
「魂には若いとか年寄りとか男とか女とか、多分関係ないんじゃないか。」
死んでから天国に行くのは魂だけだから、と彼は言った。
そんなものだろうか。でも魂になっても死ぬ前の怪我や病気のままだったら天国へ行くどころではないし、きっと魂には怪我も病気も関係ないのだろう。だとしたら、年齢や性別だって関係ないのかもしれない。
でも、それなら僕は天国でちゃんと父さんを見つけられるだろうか。もしも父さんの天国での姿が、僕が知っているのと違っていたらどうしよう。若返っている分には悪くない気もするけれど、僕とおんなじ子供だったら『父さん』とは呼びづらい。ましてや女の人の姿になっていたら、それがどんなに美人でも困ってしまう。
女王様みたいな縦ロールのカツラと腰の膨らんだドレスを着けた父さんを想像して、僕はぷっと吹き出した。へんてこだ。眠気が吹っ飛んで後から後から笑いが込み上げる。
「こら、暴れるなって。なに急に笑ってんだよ。気持ち悪いな。」
「だって、ラウルフが変なことを言うから。女装した父さんなんて可笑しい。」
「はあ? 誰がいつそんなこと言ったって言うんだ。まったく、どういう思考回路だよ。親の顔が見てみたい。」
「知ってるでしょ?」
「こ・と・ば・の・あ・や・だ。」
きょとんとする僕に、彼はわざと言葉を区切って返事した。ちょっと怒ったような、馬鹿にしたような言い方だ。でも彼はすぐにクックッと肩を揺らし始め、続いて笑い声を響かせた。
「女装した親父さんって、そりゃ笑うよな。おっかしい。仮装パーティでも行くのかよ。」
笑いの発作の合間にそんなことを言う。僕は大きなお城の素晴らしく豪華なダンスホールでたくさんの人が女装や男装をして集まる姿を思い浮かべた。
母さんは髪をキリリと結い上げ、赤いベルベットと黄金でできた冠を被った王子様だ。白いタイツにカボチャパンツ。
それをラウルフに教えると、
「だったらおっさんは白馬の仮装で十分だな。」
と、彼は盛大に笑った。
お馬さんとはあんまりだ。だけど少ない白髪を伸ばしてタテガミに見立て、ごわごわの真っ白な服を着て四つん這いになった姿は滑稽で笑えてしまう。
「それならパン屋のおばさんは御者だね。母さんは馬に乗れないから馬車がいいと思うんだ。パン屋さんはいつもバケットを振り回してラウルフを追いかけるでしょう? 馬を駆るムチみたいに。」
太った体をフリルのついたエプロンに無理やり収めて、カリカリに焼いた長くて固いパンを振り回すおばさんの姿を思い浮かべる。エプロンを蝶ネクタイ付のかしこまった燕尾服に、パンをムチに持ち替えれば、ほら、おとぎ話に出てくるカボチャの馬車の御者みたいだ。
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