6人が本棚に入れています
本棚に追加
1-2 見張り塔
ラウルフが体を傾けると、急に視界が明るくなる。
塔の時計の巨大な文字盤の裏側、たくさんの歯車やゼンマイの仕掛けがむき出しになったそばに、ぽっかりと窓が口を開いていた。四角く切り取られた夜空が藍のインクをこぼしたみたいに透き通って見える。細い月の周りで何万の星が輝くのが眩い。銀色の光が窓から塔へと降りしきり、周囲は変わらず暗闇なのに窓とそこから斜めに真っ直ぐ下の地面だけが、白くくっきりと照らし出されている。
ラウルフはその明るい場所まで進んでから、屈んで僕を地面に立たせた。
草が大好きな食いしん坊のクマのスリッパは片方だけ脱げたはずが、いつの間にか両方ともなくなっている。裸足で踏む床はひんやりとした石の感触だった。
僕は窓辺へ駆け寄り、空を望む。意外と高い位置に窓はあり、両手をかけて背伸びをした。
「すごい。お星さまが落っこちてきそう。」
銀河の手触りを確かめようと、窓から両手を突き出してみる。家の窓から見るよりずっと近い。だけどやっぱり乳白色で、銀河を織りなす星のひとつひとつは捉えられず、手は届きそうで届かなかった。
「階段から落っこちかけたやつがなに言ってんだ。」
ラウルフは呆れつつ、どこからかイスを引っ張ってくる。塔の見張り番が休憩するためのものだろう。ひっそりと陰に沈むようにして、小さな机とランプ、食べさしのバケットを盛った籠と取っ手の欠けたマグもあった。
「ほら、これを使えよ。あんまり乗り出すなよ。ここから落ちられたらたまったもんじゃない。今度は助けてやらないからな。」
そんなことを言っても、彼は僕が本当に落ちそうになったらまたすぐ腕を掴んでくれる気がする。でもそのことは黙っておいた。油断大敵だなんて小言が返りそうだ。
「ありがとう。」
壁際に運んだイスに足を乗せ、窓枠に肘をかけて外を眺めた。背伸びするよりずっと楽ちんだ。両手を差し出すとお月さまの針金がチクリと指を刺しそう。
最初のコメントを投稿しよう!