ACT 2

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マンションを出て駅に向かいながら、どうしてあの犬は付いてくるんだろう、改めて考える。 いきなり突然、付いてくるようになった。一体、どこの、誰の犬なの? 探してないんだろうか?  なんとなく真中や桜くんも引っ掛かるような言い方をするし、気にはなるけれど……考えてもしょうがない。付いてくるんだから、しょうがない。家に行っちゃったんだから、しょうがない。 小さく息をつき、駅ナカにあるコンビニでとりあえず少量のドッグフードと……シュークリームを2つ買って、家へと帰る。 なんか疲れた。とりあえず柴犬にドックフードをあげたあと、お母さんと一緒に食べよう。 大きく息をつきながら玄関のドアを開けると――すぐの(たたき)きで、柴犬が丸くなっていた。でも私の気配ですぐ立ち上がり尻尾を振りながら「わん」、見上げる。いや、だから可愛いけれども。 「どうして家に来たの? また置いてかれると思った?」 困ったなって思いながら、しゃがみ込んで頭を撫でていると……手首に引っかけていたコンビニの袋をかぶっと(かじ)った。慌てて「ダメだよ」、引っ張って離したけど。ちょうどシュークリームのところを(かじ)ったみたいで。口についたクリームをぺろぺろ舐め、また袋に(かじ)りついてしまう。 シュークリーム、欲しいの? でもシュークリームは。 「ダメだって、ちょっと」 引っ張り合いをしていると、お母さんがばたばたやって来て「ほら、ダメでしょ」、柴犬の口を横から押さえながら引き離す。そして私からコンビニの袋を奪うと、軽く中身を確かめてから「シューちゃんのは」、ドッグフードを見せる。 「こっち。美味しいよ、こっちのほうが。ね?」 ふりふりしながら、嬉しそうに見せたけど。柴犬は尻尾を下げてそっぽを向く。 嫌なの? 犬なのにドッグフード嫌なの? 思いながらも、お母さんが放った謎の一言を聞き返す。 「なに、シューちゃんって」 「この子の名前」 「もう名前、つけたの?」 眉を顰めた私に「シュークリームを食べたから」、柴犬の頭をなでなでしながら答える。 「シューちゃん。いいよね?」 お母さんの笑顔に、柴犬――シューは「くうん」、なんだか悲しげな声を上げた。
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