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〈整形なんですけど。診察室の1-A3に来て貰えますか?〉
「……診察室、ですか? 病棟ではなくて?」
〈そうです。お願いします〉
素っ気ない声で言ったあと、切れてしまう。何故、診察室? しかも整形? 何か機器、貸し出してたっけ? 思いながらも、1階へと足を向ける。
午前の外来診察が終わっている1階は、かなり静か。まだ午後の予約診察まで時間があるせいか、人もまばらだ。誰もいない整形の受付を通り過ぎ、診察室がある廊下の前で立ち止まる。
整形の診察室は5つある。えっと……なんて言ってた? 1ーAの……なんだっけ? 2? 3? 迷っていると、3の診察室から物音がした。
ゆっくりと近づき、そっとスライドドアを開け、診察室へと入る。入ってすぐ、こちらに背を向けた――黒いドクターチェアに、誰かが座っているのが分かった。
先生、だろうか? いやでも、午後からの診察にはまだ早い。訝しく思いながらも「あの」、声を掛けると、くるり、椅子が回る。回って目が合ったのは。
「く、久須義……さん?! ど、どうして?!」
軽くパニクった私を見詰めながら「今日の」、静かに言葉を繋げる。
「18時、N美術館で待つ」
「……はい?」
どうしてそんなことを言うのか理解出来なくて、そもそもどうしてココにいるのかも分からなくて、変な声が出る。すると久須義さんは「N美術館だ」、言葉を繰り返した。
「今日の、18時」
「……は、い」
とりあえず頷くと久須義さんは立ち上がり、診察室を出て行く。その背中を、ぼんやり見送って……3秒後。
ようやく「久須義さん!」、声が出て、足も動く。急いで診察室を出た……つもりだったけど、誰もいなくて。
え、何?
またこれ、なんなの?
またパニクりながら、壁をぺちぺち叩いていると「何してるんですか?」、女性看護士に声を掛けられ、慌てて壁を叩くのを止めながら「いえ、べつに!」笑顔を向ける。そのまま行こう、と思ったけど「あの」――とりあえず、聞いてみる。
「整形の方ですか?」
「はい、そうですが」
「あの、私MEなんですけど。電話、しました? あなたじゃなくても、他の人、とか」
彼女は訝しげに数秒、見詰めたあと「今ですか?」、首を傾げながらも言葉を繋げる。
「誰も、MEには電話はしてないです」
「じゃあ、その……1ーA3にいた人は……」
「加納先生はまだ、いらっしゃってないですけど」
大きく眉を顰めた彼女を見て「ですよね」、笑顔を作ってみせたあと、背中を向けて歩き出す。
誰も呼んでない? じゃあ、誰が私を呼んだの?
と言うか、久須義さんって、加納っていうドクターなの?
若干、パニクった頭で頬を抓りながら――耳の奥でリピートした久須義さんの言葉をなぞる。
『今日の18時、N美術館で待つ』
ふと、足を止め。
「……痛いっ」
頬に手を当てながら1人、呟いた。
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