ACT 3

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芝生の中に真っ直ぐと伸びたコンクリートの歩道を歩き、建物の出入り口へと向かう。 とは言え、まだ少し疑っている。あれは本当に現実だったのか、久須義さんだったのか。だいたい、どうしていきなり病院に来て、美術館へと誘うの? 昨日の様子からは、全く考えられない。でも夢にしてはやけにハッキリしていたし、否定もできず……疑いながらも少し緊張しながら自動ドアの前に立ち、建物の中へと入る。 その横目にカラフルな色使いで『今年もwater plant aquarium〈水草水槽〉開催!』と描かれた大きなパネルがあった。日付けは来週末からとなっている。それを見て、いつだったか家族でみにきたコトを思い出す。 5年か、6年前か。毎年開催されている有名な展示だったたのは知っていたけど、あまり興味もなく、よく知らなかった。 でも確か……その時は、15周年だったかの節目で、かなりのリニューアルがあるとテレビで特集が組まれていた。それをみたお母さんが、行きたい! と言いだし、何故だか家族で行くことになったのだ。 でもお母さんのようにテレビでみた人たちが多かったらしく……ものすごく人が多くて。かなりうんざりしながらも、折角だからと1時間半、並んで待った。そしてようやく通されたときには、もはやくたくたで、お腹も空いて、若干、どうでも良くなってた、のに――薄暗い室内に足を踏み入れた途端、疲れも空腹も一気に吹き飛んだ。 カラフルにライトアップされた大小、様々な形の水槽には、ゆらゆら水草が揺らめき、小さな魚が縦横無尽に泳いでいた。 その中は、まるで水中都市のようで――幻想的で、神秘的で、まるで異世界にでも来たみたいな気分になる。待った甲斐があった。たくさんある水槽を、世界を、1つ1つ覗き込みながら写真を撮り、じっくりゆっくり楽しんだ。 とは言え、もともと芸術に興味があるわけでも無く。やっぱりたくさんの人にもうんざりしたこともあり……来たのは、あの時が最初で最後だ。 パネルから腕時計に目を落として、更に足を進める。 17時55分。閉館時間は19時だとネットで調べたけれど。やっぱり館内のマップは覚えていない。どこに何があるのか、どこへ行けばいいのか。と言うか、誰もいないけど……。 そういえば久須義さんはN美術館以外、何も言わなかった。とりあえず来れば――あれが現実なら、すぐ会えると思ってたけど。やっぱ、もしかして夢だった? 不安になりながらも……辺りを見渡して、歩き続ける。 本当、閉館してるみたいに誰もいない。 ガラスの向こう側には、人の姿が見えるのに。室内は、コンクリートを踏みしめる自分の足音だけが響く。 自動ドア、開いたよね? 数分前の記憶を確かめながら――そういえばココって東西南北に出入り口があったかも。確か、展示室に続くところには受付があったような。でも東西南北、どこだったか。そもそも、どこの方角から入ったのか。
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