ACT 3

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「誰に見惚(みと)れてるの?」 リツの声に、振り返る。 「ぼくより魅力的?」 悪戯っぽく笑ったリツを見て……なんだか悲しくなって、ぎゅっと抱きつく。 「どうしたの?」 心配そうに言ったリツに「好き」、しがみつきながら呟いてしまう。 「辛くても、苦しくても。リツが好き。だってそんなリツを好きになったから……だから、ずっと傍にいたい」 見上げた私を見て、リツは小さく口角を上げたあと「ぼくも好きだよ」、言葉を繋げる。 「カナとずっと一緒にいたい。そのためにぼくは、頑張ってる」 そこで一呼吸おいたあと、視線を逸らして「ごめん」、向ける。 「だから今日は。すぐじゃないんだけど、1時間ぐらいしたら行かなきゃならない」 瞬間――彼の勝ち誇ったかのような笑みを思い出して「どうして」、大きく睨んでしまう。 「いつもいつも、どこかに行っちゃうの? ずっといてくれないの?」 「ごめん、カナ」 優しく頬に触れたけど、口が動く。 「わたしより大事なことなの?」 リツの表情が曇る。くだらないことを言ったな、と思う。でも、だって。 「リツはわたしのこと、ほっといてばかりだし。他の女の子とも、ベタベタしてるし」 「ぼくが大事なのは、カナだけだよ。不安かもしれないけど、ぼくを信じて」 「だったら、どうして」 「全部、カナのためなんだ。今は上手く……言えないけれど。話せるときがきたら、言うから。もう少し待ってもらえない?」 待って、どうするの? 婚約者がいるのに? どうして待たせるの? わたしより大事なことがあるのに?  ぐるぐる、彼の言葉が回る。でも聞けない、怖くて聞けない。こんなに好きなのに、誰かもよく分からない、ウソか本当かも分からない、彼の言葉を信じてしまう自分に、うんざりする。 言葉に出したら、くだらない感情に流されてしまう。彼を信じたくもないのに、リツを信じられなくなる。 
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