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「誰に見惚れてるの?」
リツの声に、振り返る。
「ぼくより魅力的?」
悪戯っぽく笑ったリツを見て……なんだか悲しくなって、ぎゅっと抱きつく。
「どうしたの?」
心配そうに言ったリツに「好き」、しがみつきながら呟いてしまう。
「辛くても、苦しくても。リツが好き。だってそんなリツを好きになったから……だから、ずっと傍にいたい」
見上げた私を見て、リツは小さく口角を上げたあと「ぼくも好きだよ」、言葉を繋げる。
「カナとずっと一緒にいたい。そのためにぼくは、頑張ってる」
そこで一呼吸おいたあと、視線を逸らして「ごめん」、向ける。
「だから今日は。すぐじゃないんだけど、1時間ぐらいしたら行かなきゃならない」
瞬間――彼の勝ち誇ったかのような笑みを思い出して「どうして」、大きく睨んでしまう。
「いつもいつも、どこかに行っちゃうの? ずっといてくれないの?」
「ごめん、カナ」
優しく頬に触れたけど、口が動く。
「わたしより大事なことなの?」
リツの表情が曇る。くだらないことを言ったな、と思う。でも、だって。
「リツはわたしのこと、ほっといてばかりだし。他の女の子とも、ベタベタしてるし」
「ぼくが大事なのは、カナだけだよ。不安かもしれないけど、ぼくを信じて」
「だったら、どうして」
「全部、カナのためなんだ。今は上手く……言えないけれど。話せるときがきたら、言うから。もう少し待ってもらえない?」
待って、どうするの? 婚約者がいるのに? どうして待たせるの? わたしより大事なことがあるのに?
ぐるぐる、彼の言葉が回る。でも聞けない、怖くて聞けない。こんなに好きなのに、誰かもよく分からない、ウソか本当かも分からない、彼の言葉を信じてしまう自分に、うんざりする。
言葉に出したら、くだらない感情に流されてしまう。彼を信じたくもないのに、リツを信じられなくなる。
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