ACT 3

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「カナ」 静かな声に、落ちていた視線を上げる。 「ぼくにはカナだけだ。他には、何もいらない」 その、魅惑的な瞳は、眼差しは……やっぱり私を捕らえてしまう。 「時間はあまり、ないけれど。せっかく来たんだから、楽しもう」 ぎゅっと握る手は、優しくて、力強くて。 「どの水槽も、面白いね。1つ1つに、世界がある」 穏やかで優しい、その声も。 「カナは、どれが好き?」 時々、子供っぽくなるその笑顔も、どうしようもなく好きで。 「これ? 可愛いね。カナらしい。ぼく? ぼくはこれがいい」 リツが指さした、その世界に。 「空の中にいるみたいじゃない?」  頬に触れた、愛しいぬくもりを感じながら。 「ココで、カナと……時間を気にしないで、のんびりしたい」 一緒に覗き込んだ、青の世界に夢をみる。 そうだね。 わたしも、ココがいい。 ココなら、誰の声も届かない。 ココなら――2人だけの世界なら。 どこにも行かない? わたしだけを、見てくれる? わたしと、リツと――。
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