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「カナ」
静かな声に、落ちていた視線を上げる。
「ぼくにはカナだけだ。他には、何もいらない」
その、魅惑的な瞳は、眼差しは……やっぱり私を捕らえてしまう。
「時間はあまり、ないけれど。せっかく来たんだから、楽しもう」
ぎゅっと握る手は、優しくて、力強くて。
「どの水槽も、面白いね。1つ1つに、世界がある」
穏やかで優しい、その声も。
「カナは、どれが好き?」
時々、子供っぽくなるその笑顔も、どうしようもなく好きで。
「これ? 可愛いね。カナらしい。ぼく? ぼくはこれがいい」
リツが指さした、その世界に。
「空の中にいるみたいじゃない?」
頬に触れた、愛しいぬくもりを感じながら。
「ココで、カナと……時間を気にしないで、のんびりしたい」
一緒に覗き込んだ、青の世界に夢をみる。
そうだね。
わたしも、ココがいい。
ココなら、誰の声も届かない。
ココなら――2人だけの世界なら。
どこにも行かない?
わたしだけを、見てくれる?
わたしと、リツと――。
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