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でも。歩き初めてすぐ、2人とはぐれた。
慌てて探し、ようやく見つけたけど……やっぱりはぐれる。そう言えば真中とは、かなりくっついて歩いてたなと今更、思い出し。
やっぱり松瀬くんに視られたくないな……改めて、考えてしまう。
そう言えば、会ったときから機嫌が悪そうだった。もしかしたら、視てたのかも。でも夏帆と約束したことにも怒ってた気がするけど……とは言え、真相は分からないし、聞けもしない、から。
今は、來亜と理亜都に集中しなければ。でも、真中方式で歩くわけにもいかず――とりあえず、手を繋ぐことにした。途端、恥ずかしそうに俯いてしまったから、私が引っ張って歩き始める。
混み合う尾守山の杜を出て、雨宮公園、そして駅の構内を人波に乗りながら抜けたところで、ようやく人の多さが解消された。一息ついて、あとはマンションへと裏通りを数分歩くだけ、なんだけど。
人波がなくなっても、手は相変わらずぎゅっと握られているし、俯いたままだ。とは言え、振りほどくワケにもいかず。マンションまでと思い、歩いていると。
「花江さんっ?!」
慌てたような声と共に、繋いでいない方の腕を掴まれ、勢いよく目を向ける。
「……風音?!」
「だ、だ、誰ですか、その子! もしかして隠し子ですか!」
ものすごいテンションでありえないことを言われ「まさか!」、呆れたように返してしまう。確かに小柄だし、今日の感じからすると……下手したら小学生に見えるかもしれないけど。
大きく息を吸って、吐いて。
「そんなわけないから」
次は落ち着いて、返す。でも風音の勢いは「じゃあ、いつから子供に……年下に興味が?!」、止まらない。
「だいたい、あのイケメンはどうしたんですか?! やっぱり振られたんですか! 振られたんですね! 分かってました! だから”そっち”方向に……いやでも全然、否定はしないです、しないですよ! でもとりあえず、人前では隠したほうが……SNSとか、ネットとか、法律とか、色々ありますし!」
引っ掛かるところがあり過ぎて、かなりうんざりしながらも「彼は二十歳だし」、とりあえず法的な疑惑を晴らして、言葉を繋げる。
「今、尾守山の杜に行ってて。人も多かったから、はぐれないように手を繋いでただけ」
「でも、ココ。そんなに人、いないですけど」
鋭い指摘が飛んできた。でも「とにかく、そういうのじゃないから」、言葉を押し。
「と言うか、風音はバイトの帰り?」
話しを切り替えて「そうです」、風音の気を逸らす、逸らしたんだけど。
「さっきまで松瀬さんと……あ、いえ、全然いません。松瀬さんなんて、いませんでした。いるわけありません」
突然、妙な言い回しになったかと思うと、目を逸らして黙り込んだ。なんなの、それ。と言うか松瀬くん、風音に何も言ってないの? さっきの冷たい態度も思い出し、若干ダメージを受けながらも「今は、その」、報告する。
「松瀬くんと、付き合ってるから」
「え、より戻ったんですか?! より戻ったのに?!」
繋いでいる手に目を向けられ、うんざりしながら離そうとしたとき「まあでも」、ものすごーく気になることを口にする。
「松瀬さんも……色々ありますからね」
「何、色々って」
「いや、別に……松瀬さんが、どうこうじゃないですけど」
「どうこうじゃないですけど?」
「冷たいというか、放置プレイというか」
「え? 何? そのプレイ、誰にしてるの?」
右肩をがっと掴むと風音は、はっとしたように私から離れ「すいません、すいません」、言葉を繋げた。
「口が滑りました! もう許してください!」
頭を深々と下げて逃げようとするから「ちょっと待った」、今度は右腕をがしっと掴む。
「なんなの? 気になるから言って」
「聞かなかったことに」
「出来るわけないよ」
「大丈夫です! 不可能を、可能にしてください! 花江さんになら、出来ますっ!」
強引に言葉を押しつけると、私の手を振りほどいて走って行く。
「風音っ!」
追いかけようとしたけど……左手の、來亜と理亜都が動いてくれない。それでも手を引っ張っている私に風音の「花江さーん!」――離れて安心したのか、脳天気な声が遠くから飛んでくる。
「松瀬さんとの復活愛、おめでとうございまーす! これで安心して眠れます!」
そのまま大きく手を振ると、また走っていく。
いや、おめでとうじゃないから。放置プレイって誰に? 眠れるって、松瀬くんに何言われてたの?
色々気になりながらも――動かない2人に声をかける。
「來亜? 理亜都? どうかした?」
すると、はっとしたように顔を上げながら「【ご、ご、ごめん】」、手を離した。
「【もう、大丈夫だよね】理亜都、緊張してた、緊張してた、緊張してた【言わなくていいよ】」
理亜都は恥ずかしそうに、被っていたフードを掴んで下を向く。緊張してフリーズしてたの? 苦笑いしながら軽く振り返ったけど、もはや風音の姿はなく。少し、いやかなり気にはなるけど。
「もう近くだから、行こう」
2人に笑顔を見せて、マンションへと足を向ける。
とは言え、やっぱり気になる。一体、なんなんだろう。聞かなきゃ良かった。でも、聞いちゃったからな。もやもやしながらも、マンションへと入り、奥のエレベーターで足を止める。
そのまま認証を解いていると「【どこのメーカーなんだろう?】分からない、分からない、分からない」、2人は、じーっと、認証パネルを見詰めながら口を開いた。
「【冬璃のとこのでもない】違う、違う、違う」
開いたエレベーターに乗り、動き出した箱の中で「そうなの?」、聞く。
「冬璃さんの会社じゃないんだ」
きっと嫌なんだろうな、思うけど。
「【あまり新しいとも言えないよ。冬璃の会社なら、もっと簡単で高度な、セキュリティも万全なもの、いっぱいあるのに】」
「別に、そこまでは求めてないのかも」
とりあえずの言葉で誤魔化す。
「【そう? 良かったら、ぼくたちが担当するけど】もっといいものある、ある、ある【ここは誰のマンション?】もしかして小向? 小向? 小向?」
首を傾げながら聞いたあと、わくわくした目を向けられたけど。
「ええっと、ココは……小向のマンションじゃなくて、その」
なんと言えば良いのか、考えてしまう。夏帆だと――冬璃さんの妹のマンションなんだと、言ってもいいんだろうか?
そこで、ようやく――連れて来なかったほうが良かったかも、思う。
だいたい2人は、冬璃さんに妹がいることを知ってるんだろうか?
夏帆は……面と向かっては会ったことないって言ってた。だったら2人も夏帆のことは、知らないかもしれない。
とは言え、冬璃さんは彼らを家に連れて行き、両親とは話してたみたい。冬璃さんは、どこまで自分のことを彼らに話してるんだろう?
答えの見つからないことをゴチャゴチャ思いながら、チラリと來亜と理亜都を見る。
きょろきょろしながら、わくわくしたような顔をしている。もはやここまで来て、帰ろう、なんて言えない。そして、このマンションに住んでいる人は、所有しているのは、冬璃さんの妹なんだと、私から軽々しく話すことも出来ない。
果てしなく困りながら――エレベーターを出ながら、鞄からスマホを出す。
もはや遅いけど、夏帆に伝えなければ。話しは、そこからな気がする。
でも言えない。顔を合わせて、言えない。
誰? って聞かれて、冬璃さんの養子、連れてきちゃった!……なんてこと、絶対、言えない。
むくむく膨らむ不安と共に、急激に焦り始める。結構、ナイーブな問題だったかも。マズいかも。
スライドドアの前で足を止め「【どうしたの?】着いた、着いた、着いた」、不思議そうに見る2人に「ちょ、ちょっと待ってね」、笑顔を作ってスマホの画面に目を落とす。
怒ったら、どうしよう。ただでさえ松瀬くんの機嫌が悪いのに、夏帆までなんて、考えただけでも……いたたまれない。だから、まず、メールで。少しでも、回避を。いやでも回避なんて出来るのか、分からないけど。とりあえず、一応。
1人で言い訳しながら、画面に指を当てたとき――スライドドアが開く。
真っ白になった頭で、私の目の前に立ったのは。
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