【1】

7/8
前へ
/18ページ
次へ
家に到着し、鎮痛剤を飲んで目を閉じていたら眠ってしまっていた。 慌てて目を覚まして時計を見ると、8時25分だった。 冷蔵庫の中身もすっからかんだしどうしようと思い、小一時間考えてみた。 明日は休みで予定もなかったし、道隆とお別れ出来たと言うことでたまには飲みに行こうと思い立ち、以前聡子にもらった大人っぽく見えるワンピースに着替え、髪の毛も下ろして櫛で梳かしたり、お気に入りのコロンを吹きかけるとアパートを出て行った。 すっかり雨は上がっていて、何となくジメジメしていたが飲み屋へと入って行った。 「おぅ、樹里ちゃん。らっしゃい♪珍しいな?」と言われ、樹里も「今晩は♪具合が悪くて、目を閉じていたら寝ちゃったみたいです…」と言い、苦笑をしながらお水を一口飲んだ。 今日のお通しは、ほうれん草の胡麻和え・イワシのつみれあんかけだった。 樹里は見た目に反して、お酒が大好きでよくこの飲み屋でストレス発散をしていて、すっかり顔なじみとなっていた。 女将さんが「いつもお疲れ様ね。最近、物騒になってきたから気をつけましょうね?」と言い、ビールを注いだ。 楽しくお喋りをしていると、お客が入ってきた。 樹里は何となくチラッと見ると、スーツを着ていて何となく冴えないサラリーマンの男性だった。 「お兄さん、見かけねぇ顔だな?ここいらに住んでいるのかぃ?」とご主人が聞くと「あっ…いえ。自分はまだこっちに配属されたばかりで…たまたま通り掛かったら、楽しそうな笑い声が聞こえたモンでつられて入ってしまいました」と言い、照れ笑いをした。 その笑顔に、ドキドキしていると「お隣、いいですか?」と言われ、頷くと「楽しんでいるところ、スミマセン。自分もビールください」と言い、お絞りで手を拭いた。 男性の名前は小宮川清史(こみやがわきよし)と名乗り、年齢は29歳で仕事は樹里と同じく警察官で、今年から樹里と同じ警察署に勤務をしているとのことだった。 物腰は低く、喋り口調は穏やかでとても優しい声だった。 黒髪で前髪は長くてメガネをしていて、身長は178.5cmと程々に高く、手も白くて筋張っていて道隆とは雲泥の差だった。 まさに樹里の理想とするSの人物像だった。 樹里は内心これでドSだったらいいのになぁ…と思いながら、お喋りをしていた。 思わず、道隆の愚痴を話してしまったが「大変だったね」と言われ、清史に頭を優しく撫でられて顔が真っ赤になってしまっていると「大丈夫ですか?夜風でも浴びます?」と耳打ちをされ、その声にもドキドキしながら頷くと、お金を支払ってくれた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加