生い立ち

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「俺は親じゃないし、学もない。生きている間にお前に教えられる事は、家の仕事や、会社の仕事を通して、1人で生きて行けるようにしてやる事だと思った」 祖父は初めから工場を継がせるつもりはなかったらしい。 どこかに勤めるとしても、自分で事業を興すとしても、一つの会社がどうやって成り立っているか知っておく事は、役に立つとの考えで働かせていたと言った。 「ヤスさんも、マサさんももう年だ。どちらかが引退する時に工場は閉めようと思っていた。2人もそれは承知している。それに、お前は既に重たいものを背負っているんだ。これ以上余計なものは背負わせたくない。これからは、じぶんが選んだものを背負っていけ」 ヤスさんとマサさんは、工場の従業員で2人とも70を超えている。 ここに来てから、仕事の他にも、釣りを教えて貰ったり、将棋を打ったり、とても可愛がってもらった。 俺も、親戚よりもずっと近い存在として、2人を慕っていた。 ここを出で行く事に全て納得した訳では無かったが、祖父にも考えがあるのだろうと思い、寂しさを感じつつも、大学側にアパートを探す事にした。
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