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結婚して子供を育てる環境を考慮して、マンションに引っ越し、一緒に暮らし始めた。
その頃は既に、ここでバイトをしてたから、いつも帰りは遅かった。
彼女は、悪阻が酷く、精神的にも不安定になりがちで、頻繁に実家に帰っていた。
その日、最終の地下鉄で帰り、玄関のドアを開けると彼女が蹲っていた。
驚いて抱き抱えると、足元が濡れ、床には血溜まりが出来ていた。
慌てて救急車を呼び、病院へ行ったが、間に合わなかった。
たった数センチの子供の心臓はもう動かない。
主治医と一緒にエコーを確認した時、堪えきれず涙が出た。
そんな僕を、彼女は驚いた顔で見つめていたのが、妙にチグハグで印象的だった。
それから、彼女はメチャクチャだった。
別れると言ったり、このまま結婚すると言ったり、、、不安定な彼女を落ち着かせ、よくよく話を聞いてみると、本当の父親は別に居たらしい。
夏に合コンで出会った社会人。
既婚者だった。
しかも、悪阻がつらいからと実家に帰る理由を付けて、そいつと逢瀬を重ねていたらしい。
心底呆れた。
僕と逢える時間が少なくて寂しかったとか、僕がモテるから不安だったとか、就職して一人でやって行く自信が無かったとか、早く結婚したかったとか、何とかして僕を手に入れたかったとか、、、正直バカかと思った。
それで、僕を手に入れて何になるのか。
今は一緒に居たくないと思った。
気持ちを整理する為に、部屋を出で行こうとした。
そこで、ペティナイフで腹を刺された。
霞んで行く意識の中で、あの子と一緒のところに行けるかな…… と思った。
自分の子でもないのに…
でも、その数ヶ月、確かに父親だったんだ……
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