アキの傷

5/6

2258人が本棚に入れています
本棚に追加
/143ページ
結婚して子供を育てる環境を考慮して、マンションに引っ越し、一緒に暮らし始めた。 その頃は既に、ここでバイトをしてたから、いつも帰りは遅かった。 彼女は、悪阻が酷く、精神的にも不安定になりがちで、頻繁に実家に帰っていた。 その日、最終の地下鉄で帰り、玄関のドアを開けると彼女が蹲っていた。 驚いて抱き抱えると、足元が濡れ、床には血溜まりが出来ていた。 慌てて救急車を呼び、病院へ行ったが、間に合わなかった。 たった数センチの子供の心臓はもう動かない。 主治医と一緒にエコーを確認した時、堪えきれず涙が出た。 そんな僕を、彼女は驚いた顔で見つめていたのが、妙にチグハグで印象的だった。 それから、彼女はメチャクチャだった。 別れると言ったり、このまま結婚すると言ったり、、、不安定な彼女を落ち着かせ、よくよく話を聞いてみると、本当の父親は別に居たらしい。 夏に合コンで出会った社会人。 既婚者だった。 しかも、悪阻がつらいからと実家に帰る理由を付けて、そいつと逢瀬を重ねていたらしい。 心底呆れた。 僕と逢える時間が少なくて寂しかったとか、僕がモテるから不安だったとか、就職して一人でやって行く自信が無かったとか、早く結婚したかったとか、何とかして僕を手に入れたかったとか、、、正直バカかと思った。 それで、僕を手に入れて何になるのか。 今は一緒に居たくないと思った。 気持ちを整理する為に、部屋を出で行こうとした。 そこで、ペティナイフで腹を刺された。 霞んで行く意識の中で、あの子と一緒のところに行けるかな…… と思った。 自分の子でもないのに… でも、その数ヶ月、確かに父親だったんだ……
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2258人が本棚に入れています
本棚に追加