揺れる

1/4
2252人が本棚に入れています
本棚に追加
/143ページ

揺れる

本来ならば、契約書を作成するのは、貸主側になるのが一般的ではあるが、今回はそういった作業に慣れている俺が作成する事にした。 契約書の素案が出来て、見てもらおうと思い階段を下りる。 閉店時間までまだ少しあるが、早めに見て貰いたい。 店に下りると、客はおらず、灯りも落ちている。 夕方から雨が降りだしたせいだろうか。 アキは、この店の厨房と食品庫が広いのが気に入ってると言っていた。 食品庫の奥には事務所とロッカールームがあり、トイレやシャワーも付いている。 ロッカー室には簡易ベットがあり、アルバイトが客に飲まされて酔いつぶれた時や、同居前、新作メニューの開発で徹夜になった時には、アキ自身も使っていたらしい。 事務所の方で物音がする。 今夜は早仕舞いにして、事務仕事でもしているのだろうか。 覗いて見ると、事務所の中は空っぽで、ロッカールームの扉が微かに開いていた。 「アキ?」 扉の隙間から見えたものは、髪の長い女と抱き合うアキの背中だった。 微かにシャワーの水が流れる音が響いていた。
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!