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覚悟
「俺、会社辞めよっかな」
「は?え? ナナさん?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔で見ている。
「なんだよ。その顔」
「だって、驚き過ぎて。会社で嫌な事でもあるの?」
「全然」
「なら、なんで? ナナさんの事だからきっと考えがあるんだよね?」
「ん。実はさ、大学在学中に社労士試験に合格してるんだ。会社に入ってからは、経理畑だったのもあったし、税理士資格も取らされた。それを生かして開業するのもアリかなぁ…… と」
「スゴイ! 優秀なんだ! ナナさんがそうしたいならアリだと思う!」
「いやいや。優秀なんかじゃないよ。試験なんかさ、クジじゃ無いんだから、合格ラインに届く様に勉強すれば誰でも受かるんだよ」
「へぇ。そんな風に考えた事無かったな。試験は苦手だった思い出しかないよ。 でもさ、どうして今なの? もしかして、樹さんとの事も関係ある?」
「あー。あの人の事は計算に入ってないな。なんていうか、ウチの会社は、転勤あるだろ? 転勤先も国内とは限らない。今までは、それも楽しみだと思ってたんだ。でも、これからは頻繁に家移りするのが億劫だなと思って。それに、一番の理由は、ここに居る大切な人と家族になりたい…… から? 」
「ナナさん‼︎ 」
駆け寄ってきて、広い胸に抱き締められた。
こうやって、盛大に甘やかな日々を過ごしている俺にとって、1人の生活に戻るのはうすら怖くもある。
結局、アキから離れられないのは、俺なのだ。
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