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葡萄畑の広がる地域に建てられた別邸の周囲には、高い糸杉が疎らに生えていた。
所有の農地にも近いこの辺りは、洗練された雰囲気はないが、非常にのどかだ。
新しく植えられた庭木と、整えられたばかりの芝生とで、まだ不自然な眺めの庭をダンテは見回した。
海の方にいた親戚も、既にみな内陸に移っている。
連絡を取り合うのだけは楽になるな、などと考えた。
水を通すようになったばかりの噴水を眺め、ふと周辺を散策してみようかと思い立った。
潮の匂いの代わりに、草木の香りがする土地というのは、散策したらどんな雰囲気なのか。
あまり歩いたことは無かったので、見てみるのも悪くはないと思った。
馬屋に行き、一番乗りやすそうな馬を馬丁に選んで貰った。
海で育ったので船には慣れているが、馬の扱いは苦手だ。
内陸に住むなら、これも覚えなくてはならんかと思った。
練習がてら乗っていれば、土地勘が付くのも早いかもしれない。
悪くはないかと思った。
馬丁が設えた鞍に乗り、一応知識として教わった通りの動作をしてみる。
馬の背中の筋肉の動きが、鞍を通じて奇妙な感触として伝わった。
飛ばすのはまだ無理だと思った。コツが分からない。
ゆっくりと歩かせる。
「行ってらっしゃいませ」
中年の馬丁が言った。
まだ試し乗りのつもりだったのだが、引っ込みが付かなくなった。
「あ……ああ」
仕方なく、のどかな蹄の音を立て門外に出てみた。
草の香りが漂う。
中々悪い香りではないと思った。
今まで住んでいた海の街は、どの方角だろうか。
馬上から、見当を付けた方向を眺めてみる。
風が温く滞った感じだ。
いろいろ違うものだなと思った。
暫く行くと、遠くに城壁が見えた。
街はさほど遠くはないのだなと思った。
のどかに、ポクポクと音を立てて城壁を目指した。
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